輝く石に願いをこめて｜リアクション

輝く石に願いをこめて

　　【黄昏色の思い】

　僅かに空の端が水色から朱色に染まろうとする頃、星ヶ丘の寮に一通の手紙が届いた。
　それは、エアメール。遠く離れたイギリスの姉からの手紙だった。
　サナリアナ・アークロットは、手紙の封を開けるのを躊躇った。

　サナリアナは、厳格な父の監視に近い管理下での生活に、自分自身すら見失いかけて家を飛び出した。
　その後は、幸いにして祖母の縁者の勧めを頼って寝子島高校に入学出来たのである。
　サナリアナには、年の離れた兄と姉がいたが。その当時は──居ただけだった。

　手紙の差出人の名前を見つめて『今更……』という暗くて冷たい感情が湧き上がる。
　しかし、本当に急用だった場合は、開かない訳にもいかず。

　手紙を開けば──唐突に家出をしたこちらを心配する内容と、父との確執に気付けず力に慣れなかったことを詫びる内容──

　なおさら、『今更……』と思う感情と、心配と謝罪を綴ってくれた姉に対して、そんな感情しか持てない自分がサナリアナは嫌になって、自分の寮を飛び出した。

　走ったのか歩いたのかも覚えていない。
　しかし景色は、僅かに見覚えがある。
　いつの間にシーサイドタウンまで来てしまっていたのだろう。
　「………………」
　気分は落ち込みを通り越して真っ暗で気持ちが悪いままだが、こんな所まで来ても仕方が無い。

　引き返そう……そう思ったとき、パワーストーンの展示されているウィンドウが目に入った。
　朱色の光を僅かに交えた透き通った水晶がとても綺麗に輝いている。
　しばし、それを無心に眺めた後、誘われるようにサナリアナは店内へと誘われるように中へと入っていった。

　小さく響くベルの音にも気付かない位、そこには圧倒的な存在感に溢れる石が多数陳列されていた。
　サナリアナは煌くそれらに心を奪われるように、店の中を歩き見て回った。
　膨大な種類の石、それぞれについたパワーストーンとしての意味。
　表記されているパワーストーンの意味の文字は目に入らなかったが、それぞれの石が特別なんだなという事だけは、存在感や輝きからサナリアナは理解した。

　「………………」
　店内を一周して、またここに戻ってきてしまった。
　そこにあったのは、一種類の石。
　青蛍石──ブルーフローライトと呼ばれるその石の意味は『心を穏やかにする』
　そこにある石は、自分の瞳と全く同じ色をしていた。

　初めて、石の硝子皿についていたタブに文字が書かれていたことにも気付く。
　どうやら、複数の意味があるようだ。
　──『抑圧された感情を解放してくれる』『ネガティブな感情の解消』
　最後に目に付いたのは『自由を望む心を高める』──

　気がつけば、それをメインにカウンターでブレスレットを作ってもらっていた。

　作ってもらったブレスレットを付けたままお店の外に出る。
　お店を出れば、まるでつき物が取れたかのように心はすっきりしていた。
　外は夕暮れ。
　朱色が鮮やかな空のまにまに、誘われるように夕日に手をかざすと、つけていたブレスレットが、夕暮れの一つ一つの珠の光を反射するように、キラキラと光っていた。

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