輝く石に願いをこめて｜リアクション

輝く石に願いをこめて

　　【恋・ご・こ・ろ】

　紅林柳霞は自分の店「セレクトショップ『ステラ・マリス』」を従兄弟に任せて、息抜きに散歩に出ていた。
　この頃、どうも気分が晴れない。いや、晴れない理由が分かっているだけにその症状は深刻ともいえた。
　それは、『恋の病』──しかも、重症である。

　空は清々しく晴れているのに、道を歩いてみても心はすっきりしない。
　そんな時に『天然石・パワーストーン　幸　』の店を見つけた。

　柳霞は自分でもアクセサリー作りをする。
　ビーズに限らず、難しいが出来上がりに達成感ときらめきが宿るレジンなど。
　時にはあまりに作りすぎて、自分の店のお客さんに配っているくらいだ。

　パワーストーンも興味の対象だったが、石の意味など余り詳しくない事もあり、ついつい機会を逃してしまっていた。
　僅かな勇気を出して、ドアをそっと押してみる。
　カランっという来客を知らせるドアの鈴が心地良い音を立てて鳴った。

　「ああ、でも見てるだけで楽しいなぁ…これも綺麗だし、こっちのも素敵だし──どうしようかなぁ」
　店の色とりどりの石に目移りして、店内をあちこち見て回る柳霞。
　「ルビーレッドのドレスを着て出かけたのが楽しかったからかな？
　つい、赤色の石にばかり目が行っちゃうよー」
　そんな事を呟き考えながら、実際に手に取ってみたのは、ピンクトルマリンとピンクオパール、それとローズクォーツの３種。

　それを先程からじっと見ていた暗道忍は、そそっと不自然でないよう柳霞の傍に寄り声を掛けた。
　「お客様、お手に取られているのは全て恋愛と女性に関する石の様ですが、何かお悩み事でも？」
　柔らかく微笑み尋ねる忍の言葉に、石の意味は知らなくても図星だった柳霞は、恥ずかしそうにしつつ苦笑を禁じえなかった。
　『自由にお手に取って御確認下さい』とタブのついている受け皿から、そっと何となく一粒のローズクォーツを取り出して眺めながら、小さく唸った。
　「うーん……」
　確かに悩んではいる。自由業とはいえ、仕事途中で息抜きに出かけてしまう位には思いつめている。重症だ。
　「自分の持っている気持ちが、何なのかわからなくて……
　ううん、多分どこかでわかっているんだけど、このまま抱いていていいのかわからなくて──
　……怖い」

　最後の一言の本音を呟いてから、柳霞は慌てて「あ、ごめん、ちょっと暗くなっちゃった」と取り繕って笑顔を浮かべる。
　その言葉を聞いた忍は、少し離れたテーブルから、ミルキークォーツとセレナイトを持ってきた。
　「ミルキークォーツは愛や幸福、セレナイトは迷いや悩みに向き合う効果があると言われてますよ。
　パワーストーンに依存し頼りすぎるのは良くないですが、最初に見ていた石を見る限り、お客さんは多分石に呼ばれてここに来たんですよ」

　周りのお客さんに聞こえないように、しーっと前置きして笑みと共にそう告げる忍。
　その頃には柳霞も煌くパワーストーンに目が釘付けになっていた。
　「はいっ、これでお願いします！　……んー、ブレスレットがいいな。仕事中もつけられるし」
　「かしこまりました。少々お待ちを」

　柳霞は早速出来上がったブレスレットを手に付けてみた。
　「ん、何だか心が落ち着く感じがするよ」
　「それは良かったです、お客様」
　「このまま前向きになって、少し女性らしさが上がるといいなぁ、なんて……」
　当然の乙女の夢に、忍が先程、磴琥珀の言っていた『背中を押してくれる相棒のようなもの』という言葉を思い出して復唱しようとする。

　「も、もちろん努力もするよっ。努力するからっ」
　忍の雰囲気に柳霞が慌てて言葉を付け加える。
　「だからちょっとだけ、力を貸してね」
　出来上がったブレスレットに柳霞は軽く信頼と愛着のキスをした。
　「ありがとう、これお代。
　……また、来てもいいかな？」
　「是非またいらしてください。ブレスレットの紐のメンテナンスや、石の力を充分に発揮できるよう浄化などもただで行っておりますので」
　琥珀が、既に組み上げる様のブレスレットを作りながら「お待ちしております」とそっとアフターサービスの言葉を付け加えた。

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