輝く石に願いをこめて｜リアクション

輝く石に願いをこめて

　　【私とネコと恋心】

　現代文の久保田美和先生も、こんな所にいるんだなと浅神悠樹が義妹の千鶴と共に純粋な関心を向けている頃。
　店内では、その存在に気付かないくらいに、１人の少女が困ったように店の中でとある物を探していた。

　「何かお探しですか？」
　現在、店長代理を務めている磴琥珀が声を掛ける。
　「あ、丁度良かった…っ。
　あのっ、袋を探しているんです。石を入れるような巾着袋なんですが……」
　その来客、綾辻綾花は前に不思議な空間でこれまた不思議な石と指輪を手に入れていた。
　それを、常に持ち歩けるようにそれを入れる為の袋を探していたのだが──

　「ピンク色で猫の刺繍が入っているようなのが良いんですが……」
　「ふむ……難しいですね……
　石は種類によっては先端が尖っているものもありますから、刺繍の糸で引っ掛けてしまわないようにと、袋自体はシンプルなものが多いのです」
　「そうなんですか……」
　綾花が見るからにしょんぼりと落ち込んだ様子で肩を落とす。
　「もし、刺繍糸に引っ掛からないような鋭利な部分の無い石なら、自分で刺繍してみるっていうのはどうでしょうか。きっと愛着が湧きますよ！」
　暗道忍がフォローを入れる。その言葉に、綾花は目を輝かせた。
　「はいっ！　そうしてみます！」
　返って来た眩しい笑顔に、忍も営業用の笑みと同時に少しだけ安堵した様に微笑を浮かべた。

　「それで……あの……わがままばかりなんですけれども──中で二つに分かれているような、そんな袋ってありますか？
　宝物の石と一緒に、付けていない時に指輪を入れたいと思っていて……」
　そう告げる綾花の指には、肉球をモチーフにした可愛らしい指輪がつけられていた。
　琥珀はその指輪を目にしてしばし思案する。
　「ふむ…それをいれるとなると、中布も丈夫でないと傷がついてしまいますね。
　なかなか天然石の巾着に中袋がついているものは少ないのですが……最近になって、その片方に石を浄化するための水晶のさざれ石を入れられるものが増えてきたのです。
　ご覧になりますか？」
　「はいっ、是非っ！」
　綾花が机などあちこちに煌びやかに飾られている石を、服などに引っ掛けてしまわない様に気をつけながらも急いで琥珀のいるカウンターの方へ向かう。
　カウンターでは琥珀が、いくつかの見本を出してくれていた。
　「ピンクの色で刺繍もなさるのでしたら、白がおすすめですよ」
　「あ、これなら……指輪も石も入りそう……！」
　「指輪を入れる側に刺繍をなされば、石も傷つかずに済みますし……おすすめだと思われますよ」
　「はい、ありがとうございます！」
　綾花は嬉しそうに目を輝かせながら、その巾着を袋に入れてもらった。

　そのラッピングの待ち時間の間、ブレスレット用に穴あけされた石の乗った硝子皿のところに、『恋愛運』の文字を見て綾花は、無意識に想い人の事を考えていた。
　司書教諭であり、３年の担任でもある早川珪先生。
　とても素敵な人だから、もう少し距離が近づけたらいいな……と、想うだけで僅かに胸が高鳴った。
　
　そこで、恋愛運と言う文字に目が行ってしまうのが乙女というもの。
　綾花はあちこちに並ぶハート型の石に目を取られながら、その中の一つ、水晶の猫がローズクオーツのハートの石を持ってるストラップに目を定めた。

　細工物としてもとても良く出来ていた。それがとてもとても可愛くて。
　気がつけば会計の際につい手に取っていた。
　「おっ、良い物に目をつけられましたね！　それ最近入ったばかりなんですよ」
　忍が、カウンターでハートを抱えた猫のストラップに情報を添えてくれる。
　綾花は思わず嬉しくなって、僅かな微笑みを隠せなかった。

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