輝く石に願いをこめて｜リアクション

輝く石に願いをこめて

　　【少しでも　前を向いて】

　カランと、ドア先の来客を知らせるベルが、店の雰囲気にとても良く合うレトロな音を立てた。
　今までにも、何度か看板を目にして気になっていた店だったが、いつも何かで用事があって直ぐに店の事は忘れてしまっていた。
　今日は夏休み。何の用事もない一日。
　桐生計都は特技の工芸に急に石を使ったものを作りたくなって、気がつけばパワーストーンの店を訪れていた。

　店内は様々な石に囲まれて別空間の様だ。
　来て正解だったかも知れない。どんな色、どういうアクセサリーを作るか等の思考が一気に巡ってくる。
　その中で、ふと計都の目に留まる物があった。
　「効果……」
　それは、ストラップやブレスレットの硝子皿に付けられた金運や仕事運などの『効果』の札。
　「………………」

　例えば。例えば、パワーストーンと言う括りで考えたとき、自分に必要な石というのはどんなものがあるだろう。
　恋愛運──初恋の相手がまだいない状態だから、とてもイメージできるものでもないし。
　──金運。こちらもお小遣いと貯金で何とかなっているから……
　「改めて手を出すほどでも……」
　１人心地にぽつりと呟く。

　では、今の自分が今一番叶えたい事は何だろう？

　「………………」

　一つ、思い至って胸が痛んだ。
　それは『今の自分を変える事』
　思えば、いつも人の目を気にしてうじうじしていた。
　自分の意見も言い出せず、自分の意思すら表に出せない。
　そんな自分が嫌だと思いつつ、今まで何も出来ないで来た自分がもっと情けなくて。

　『少しでも、それを変えたい』──それは計都が、改めて自覚した決意だった。
　勇気を出して、カウンターに立つ磴琥珀の所へ向かう。
　「あの、自分を変えられるような……つ…つい、いつも引っ込み思案で……」
　琥珀は目の見えない牛乳瓶の蓋の様な眼鏡の向こう側から、それでも尚優しいと分かる眼差しで計都を見た。
　「そうですね。お客様でしたら、ラリマーとアクアマリン、ブルーレースアゲートの組み合わせがお勧めですよ。
　ラリマーは柔らかいですが、どれも寒色系の色合いですから男性が付けていてもおかしくありません」
　「じゃ、じゃあ、ストラップにしてもらってもいいですか……？」
　「分かりました。少々お時間を頂いても大丈夫ですか？」
　「は、はいっ！」
　緊張で身体を固くしながら待つ計都に、琥珀は慣れた手つきでストラップを作りながら優しく言葉を掛けた。

　「ブレスレットやストラップの穴あきビーズ以外にもお守り石そのものを置いていたりもしますよ。
　しかし、石はなんでも願いがかなうおまじないというわけではありません。
　頑張ろうとしている人の思いに応え、背中を押し支えてくれる相棒のようなものです。
　ですから、この店に来てくださる皆さんに、願いのために頑張ってほしいと願っているのですよ」

　琥珀はそう言ってストラップを纏め上げる。
　「出来ました。こちらをどうぞ」
　「あ、ありがとうございます……！」
　小さな袋にラッピングされたストラップは、掌の上で不思議と僅かに温かく感じた。

　それから、計都はストラップを良く持ち歩くデジカメのポーチにつける事にした。
　そのまま店を一巡りして、家にある素材と組み合わせる予定で水晶といくつかの石を購入する。

　今までは完全に作るだけで満足していたけれども──今度のものは、完成したら誰かに贈ってみるのもいいかも知れないと思いながら……