輝く石に願いをこめて｜リアクション

輝く石に願いをこめて

　　【全力迷走羊の導き手】
　
　「だ、誰も生徒の子来ちゃったりなんてしてないわよね……っ？」
　久保田美和先生は、挙動不審気味に辺りを見渡した。

　このパワーストーン店『幸』は、世界中で枯渇しつつある鉱脈が多発する中、店長が自らの足で、新しい石や新規の鉱脈探しに余念が無い。
　その為、今は店長代理が店を切り盛りしている。
　石の種類は極めて豊富。
　それならば美和先生にでも、見聞を広めに来たとでも、新しい方向性のアクセサリーが欲しくなったとでも、なんとでも言える強みがある。

　しかし、そこは美和先生。
　ざんねんな事に、頭の中は『アクセサリーに彼氏が欲しいって、願掛けっておかしいかしら……！　生徒に気付かれちゃったりしたら恥ずかしい……！！』感に溢れ返っていた。
　だが、恋愛で数多の傷を負った歴代の勇者、美和先生。そろそろ、スマートかつ胸キュン(死語)な恋愛を叶えたいお年頃なのである。

　「何かお探しですか？」
　「うひゃあ！　あ、ああの店員さん？」
　「はい。何なりとお申し付け下さい」
　店のアルバイト、暗道忍はきちんとした佇まいで笑顔を交えて一礼した。
　忍の独特の気配に、美和先生はそれだけで僅かに胸がときめきかけたが、今はそれを打ち払い、本来の目的につく。

　「あの、恋愛運が上がるような石が欲しいのだけれども……」
　「恋にお悩みですか？」
　「ええ……ここ最近、振られてばかりで……
　一緒にお酒を飲みに行ったら、それを境に一気に疎遠になっちゃったり……自力で片付けをしたマンションに案内したら、やはり疎遠になっちゃったり……」

　忍は真っ先に思いかけた『それは、恋愛以外に何か問題があるんじゃないのか……？』という喉まで出かけた疑念を何とか飲み込んで、彼女に必要なものをイメージする。
　姿は目で見て、言葉は耳で聞き、心は肌で感じろ──それが、忍の持論でもあった。
　美和先生の様子をじっと見て、しばしの思案の後。

　「こういうのはね、恋愛よりも自分の誕生石か一目見て気に入った運命的な物を選んだ方が良かったりもしますよ。
　恋愛も、今の様に急く事無く、まずは外堀を埋めろ、です」
　「恋愛の外堀……！」
　美和先生は感動を隠さない様子でその言葉に釘付けになっている。

　「因みに誕生日はいつですか？」
　「誕生日は、6月18日だけれども……」
　「六月の誕生石でよければ、ムーンストーンはどうです？
　それぞれ『健康』『富』『長寿』などの意味を含む石なのですが……」
　「『健康』『富』『長寿』……？」
　美和先生は、恋愛とは離れたその単語を不思議そうに復唱する。
　「ムーンストーン自体にも、女性らしさをアピール出来る効果があるとも言われていますよ」
　一際クオリティの高いか、それ自体が珍しい石が並ぶカウンターで、店内販売用のアクセサリーを作っていた店長代理の磴琥珀が、二人のやり取りに軽くフォローを入れる。

　「ええ、恋愛は大事ですが、男なら健康な女性は魅力的ですし長生きしてもらいたいものです。
　それに富もあれば完璧じゃないですか！」
　「た、確かに……お金とかあって、もっとしっかりしたお部屋に住めれば、誰にも家がゴミ屋敷だなんて……！」
　ぶつぶつと、俯き言葉を零すブラック美和先生。
　この分では過去に片付けた部屋は既に相変わらずになっているようだ。

　「それに出会いのチャンスをもたらすと言った効果もありますね。
　俺は人との出会いは結構大事にする方でしてね。
　横の繋がりから新しい仕事を探したり名所店コネと言った物は案外馬鹿にならない物ですよ？」
　忍が笑顔を浮かべたまま、石を痛めない紙皿の上に見やすい様に、幾つかのムーンストーンを置いて見せた。
　「わあ、予想以上に綺麗ね……これは迷っちゃうわ」
　「後は恋愛で失敗したくなければターコイズがお勧めですよ。
　これは成功の暗示がありますし恋愛運を上げるのにも向いてますね──っと、そうだ。購入後に分からない事がありましたら、遠慮なくこちらに……」
　そう言って、忍は店と電話番号アドレスの記載された名詞を笑顔で差し出した。
　「アフターケアも大事ですからね！　遠慮なくお電話下さい。一同お待ち申し上げております」

　もう少し好奇心から見て回る事を決めた美和先生に、そう告げて改めて忍は笑顔で一礼して見せた。

このページにイラストを設定する

輝く石に願いをこめて

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧