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時刻表で巡る旅 ――妄想編――
◆鴇波 羽衣 ～秘境を巡る旅～
「あれー、忘れ物かな？」
羽衣以外には、誰も居ない教室。それだけでも ちょっとドキドキする。
誰かが置き去りにした時刻表を手にとって、羽衣はパラリと捲った。
「わあ、見てるだけで遠くに行けそうな気がして、ワクワクするなー」
大きな瞳をキラキラ輝かせ、羽衣は うっとり首を傾けた。
「自然が多くて和やかな旅がしたいな、秘境駅があるような路線とか……」
愛知県豊橋市と長野県上伊那郡を結ぶ飯田線には、秘境駅を巡る臨時列車が走っていた。
94の駅のうち、極端に利用者の少ない6つの駅が、鉄道ファンの間で『秘境駅』と呼ばれて、人気を呼んでいたからだ。
「へえー、いいなー乗ってみたい！」
秘境駅という響きは、羽衣の冒険心をもくすぐった。
「日常から離れて、一人旅ってのもいいよね」
豊橋で稲荷寿司を買って食べながら、羽衣は車窓から流れる風景を眺めた。
空の青、奥深い山の緑、天竜川の透明な流れ。
「寝子島の自然と似ているようで違う……どっちも鮮やかで綺麗」
景色に心奪われるうちに、電車は最初の秘境駅『小和田駅』に到着する。
昭和初期に建てられた、木造の赴きある駅舎に迎えられる。ここはダムの建設で周辺の集落が水没してしまったため、利用者が減った経緯を持つ。
「古びた駅舎や看板、撤去された線路跡に歴史を感じるなあ……ここは恋愛成就のスポットでもあるんだよね、高校生のデート場所としてはちょっと大変な所だよね」
それ以前に相手がいないんだけどね……と、小さく肩を落とす。
お次は、『中井侍駅』。
「何だか、カーポートみたいな駅だね。かわいい」
眼下に茶畑が広がる、どうにか雨風だけを避ける格好の、小さな小さな駅だ。
周囲には、家が2軒あるばかり。
「小さくても頑張ってるんだね、ちょっと親近感覚えちゃうかも……♪」
『為栗駅』は、正面に天竜川が流れている。
「どこもそんな感じだけど、これも絶景だね！」
中井侍駅ほどではないが、やっぱり小さな駅だ。小和田駅と同じように、ダムの建設によって利用者が去っていったという過去を持つ。
「水没した集落も、ちょっと見てみたいなぁ……」
時を止めたまま、水に抱かれて眠っている集落は、今どうなっているのだろう？
『田本駅』は絶壁の駅として、名が知れている。
細いレールは、コンクリ製の絶壁と天竜川に挟まれて、ようやく走っている。
そのため細長い駅は、どちらかというと道のような印象を与えた。
「この坂を登って見下ろすと、駅が一望出来て絶好の撮影スポットなんだよね」
当然、羽衣だって携帯でパチリと一枚。
「どこもレベルが高いなぁ」
大自然に囲まれているお陰で、夏でもどこか爽やかな暑さだ。
『金野駅』は天竜川に阻まれて、人里近くに駅を作れなかった為、現在の場所に開業された駅だ。
周囲にあるのは、渓流と使われなくなった自転車置き場のみ。
そして、ここでも大自然に目を奪われる。
「自然と一体になっている、って感じがするよね……」
肺一杯に新鮮な空気を取り込むと、羽衣は明るい色のポニーテールを揺らして、空を仰いだ。
「そうだ、駅名標を撫でると金運がアップするんだよね」
しっかりとナデナデすると、羽衣は「よし」と小さく手を丸めた。
羽衣はついに、最後の秘境駅『千代駅』に至る。
駅舎を一歩出ると すぐに点字ブロックが置かれた、この駅にも金野駅と同じような噂がある。
かつて貨物駅として利用されていた、小さな駅の「ちよ」の駅名標。こちらのご利益は長寿だ。
「きっと、駅名から生まれた噂なんだろうなぁ」
或いは旅人が訪れるのを願った、おまじないの類なのかもしれない。
すでに使われなくなったトンネルの脇に、民家が一軒あるだけの寂しい風景。
だがそんなレアリティや歴史こそが、秘境ファンや鉄道ファンを惹き付けてやまない魅力。
でも出来れば。
「気持ちを共有できる人と、一緒だともっと嬉しいな……」
なんとなく誰かさんの輪郭が、思い浮かばないでもないけれど。
「高望みかな？」
隣に居て欲しいと思うには、まだ気持ちは淡く幼くて。
肩を竦めると、羽衣はふわりとスカートを揺らして、メリーゴーランドのようにくるりと回った。
羽衣の動きと共に、深い緑が一回転した。
「今は秘境と呼ばれていても、昔はそれなりに利用者がいたんだよね、きっと。寂れてしまっても、消えずに残っているのは、きっと今もその土地を愛してる人がいるから……なんだか素敵だな」
巡り巡って、飯田駅。
名物の電車の形の最中を、お土産に購入する。
「自分であんこを詰めるんだ、面白～い！」
皆も、喜んでくれるだろう。
ふうと、息を落として羽衣は時刻表を胸に、目を閉じた。
「旅って色々な事を感じられるから、大好き！ あーっ、どこか行きたいなー」
「あれー、忘れ物かな？」
羽衣以外には、誰も居ない教室。それだけでも ちょっとドキドキする。
誰かが置き去りにした時刻表を手にとって、羽衣はパラリと捲った。
「わあ、見てるだけで遠くに行けそうな気がして、ワクワクするなー」
大きな瞳をキラキラ輝かせ、羽衣は うっとり首を傾けた。
「自然が多くて和やかな旅がしたいな、秘境駅があるような路線とか……」
愛知県豊橋市と長野県上伊那郡を結ぶ飯田線には、秘境駅を巡る臨時列車が走っていた。
94の駅のうち、極端に利用者の少ない6つの駅が、鉄道ファンの間で『秘境駅』と呼ばれて、人気を呼んでいたからだ。
「へえー、いいなー乗ってみたい！」
秘境駅という響きは、羽衣の冒険心をもくすぐった。
「日常から離れて、一人旅ってのもいいよね」
豊橋で稲荷寿司を買って食べながら、羽衣は車窓から流れる風景を眺めた。
空の青、奥深い山の緑、天竜川の透明な流れ。
「寝子島の自然と似ているようで違う……どっちも鮮やかで綺麗」
景色に心奪われるうちに、電車は最初の秘境駅『小和田駅』に到着する。
昭和初期に建てられた、木造の赴きある駅舎に迎えられる。ここはダムの建設で周辺の集落が水没してしまったため、利用者が減った経緯を持つ。
「古びた駅舎や看板、撤去された線路跡に歴史を感じるなあ……ここは恋愛成就のスポットでもあるんだよね、高校生のデート場所としてはちょっと大変な所だよね」
それ以前に相手がいないんだけどね……と、小さく肩を落とす。
お次は、『中井侍駅』。
「何だか、カーポートみたいな駅だね。かわいい」
眼下に茶畑が広がる、どうにか雨風だけを避ける格好の、小さな小さな駅だ。
周囲には、家が2軒あるばかり。
「小さくても頑張ってるんだね、ちょっと親近感覚えちゃうかも……♪」
『為栗駅』は、正面に天竜川が流れている。
「どこもそんな感じだけど、これも絶景だね！」
中井侍駅ほどではないが、やっぱり小さな駅だ。小和田駅と同じように、ダムの建設によって利用者が去っていったという過去を持つ。
「水没した集落も、ちょっと見てみたいなぁ……」
時を止めたまま、水に抱かれて眠っている集落は、今どうなっているのだろう？
『田本駅』は絶壁の駅として、名が知れている。
細いレールは、コンクリ製の絶壁と天竜川に挟まれて、ようやく走っている。
そのため細長い駅は、どちらかというと道のような印象を与えた。
「この坂を登って見下ろすと、駅が一望出来て絶好の撮影スポットなんだよね」
当然、羽衣だって携帯でパチリと一枚。
「どこもレベルが高いなぁ」
大自然に囲まれているお陰で、夏でもどこか爽やかな暑さだ。
『金野駅』は天竜川に阻まれて、人里近くに駅を作れなかった為、現在の場所に開業された駅だ。
周囲にあるのは、渓流と使われなくなった自転車置き場のみ。
そして、ここでも大自然に目を奪われる。
「自然と一体になっている、って感じがするよね……」
肺一杯に新鮮な空気を取り込むと、羽衣は明るい色のポニーテールを揺らして、空を仰いだ。
「そうだ、駅名標を撫でると金運がアップするんだよね」
しっかりとナデナデすると、羽衣は「よし」と小さく手を丸めた。
羽衣はついに、最後の秘境駅『千代駅』に至る。
駅舎を一歩出ると すぐに点字ブロックが置かれた、この駅にも金野駅と同じような噂がある。
かつて貨物駅として利用されていた、小さな駅の「ちよ」の駅名標。こちらのご利益は長寿だ。
「きっと、駅名から生まれた噂なんだろうなぁ」
或いは旅人が訪れるのを願った、おまじないの類なのかもしれない。
すでに使われなくなったトンネルの脇に、民家が一軒あるだけの寂しい風景。
だがそんなレアリティや歴史こそが、秘境ファンや鉄道ファンを惹き付けてやまない魅力。
でも出来れば。
「気持ちを共有できる人と、一緒だともっと嬉しいな……」
なんとなく誰かさんの輪郭が、思い浮かばないでもないけれど。
「高望みかな？」
隣に居て欲しいと思うには、まだ気持ちは淡く幼くて。
肩を竦めると、羽衣はふわりとスカートを揺らして、メリーゴーランドのようにくるりと回った。
羽衣の動きと共に、深い緑が一回転した。
「今は秘境と呼ばれていても、昔はそれなりに利用者がいたんだよね、きっと。寂れてしまっても、消えずに残っているのは、きっと今もその土地を愛してる人がいるから……なんだか素敵だな」
巡り巡って、飯田駅。
名物の電車の形の最中を、お土産に購入する。
「自分であんこを詰めるんだ、面白～い！」
皆も、喜んでくれるだろう。
ふうと、息を落として羽衣は時刻表を胸に、目を閉じた。
「旅って色々な事を感じられるから、大好き！ あーっ、どこか行きたいなー」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2014年04月21日
- 参加申し込みの期限
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- 2014年04月28日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2014年04月28日 11時00分
