本当に超豪華でした。
「すごいじゃない」
　と鷹峰 凪がつぶやいたのもむべなるかな。
　
　敷地の広さもあいまってなんとも広大、野球はおろか、各種目そろった陸上大会くらい開催できそうな駅ビル屋上です。ビルの内部であれば色々仕切りがあったりして、歩いていてもここまで広さを実感することもないでしょうが、遮蔽物のない屋上ならそれは別、まるでここは、都会にぽっかり開いたミステリーサークルのよう。
　でも凪は、ただ広いことにのみ驚いたのではありません。
　眼がくらむ、とまで言えば言い過ぎかもしれませんけれど、そこには絢爛と表現するほかない、大大飲食祭りが繰り広げられていたのです。
　屋台がぎっしりと軒をつらねています。
　すべてセルフサービスです。好きな屋台に行って好きな物を注文すればいいのです。
　焼き物、あります。
　揚げ物、煮物、あります。
　ねじり鉢巻きの職人が握ってくれる寿司の屋台には、トロにブリ、ハマチ、アナゴ、タコ、サーモン、タマゴ、タコに軍艦などなどなど、目にも楽しいメニューが満載です。
　粉もの、と表示された看板の下では、畳一畳ありそうな巨大な鉄板を前に、威勢のいいあんちゃんが豪快に焼きそばをかき混ぜ、そこにお好み焼きの材料を流してモダン焼きをつくっております。その横では黒い戦艦みたいなたこ焼き機が、休みなくタコ焼きを量産している最中でした。
　赤ちょうちんを下げているおでん屋で割烹着を着ているのは、なんだか過去がありそうな黒髪の女性。脇に置いた年代物のラジカセから、コブシの利いたド演歌が流れているのも風情があってよろしい。
　ハンバーガーショップでは、なぜか水着の上に星条旗柄のエプロンをしめたアメリカンガールが、パテが大きすぎてはみ出し気味のグレイトなハンバーガーと、これまたソーセージがオーバーサイズなホットドッグをご用意しているようです。
　一方で目を転じれば、箸休め的なそばやうどんの屋台だってあります。
　ですけれどそれはあくまで序の口、中華とイタリアンは都内から出店の有名どころですし、アツアツのナンを焼いて待っているインド料理、アオザイ着た店員がかわいいベトナム料理、香ばしいケバブの棒がくるくる回るトルコ料理店も営業中という世界の食博覧会が開催されているのかという騒ぎではありませんか。
　さらにはケーキの名店、アイスクリームパーラー、和菓子専門店、いずれも複数あって互いにバチバチとライバル意識を燃やしているようですね。
　けれども！　やっぱり！
「ビールよね」
　クールな凪でもこれには笑みを浮かべずにはおられません。
　これが冷静でいられようか、いや、ない！
　世界のビールショップが彼女を待ち構えているのでした！
　やはりセルフサービスです。好きなビールショップに行って好きな物を注文しましょう！
　ドイツの濃厚なビールはいかが？　キンキンを通り越して半分氷でできているような大ジョッキに、並々注がれる琥珀色のときめき。優等生のような真面目な味のラガーに、ずんと太く懐の深い黒のスタウト、優しく語りかけてくるようなピルスナーも捨てがたい。さすがビール大国、これにとどまらず各種銘柄がご用意されていました。ドイツ一国に絞ったとしても、大ジョッキでの全種類制覇は難しいかもしれません。
　甘さを求めるならベルギービールもあります。上品にすっきり、それでいて茶目っ気もあるベルギーブランドは、少量ずつ注がれるものが多いようで、ついついおかわりをかさねてしまうでしょう。色もとりどり、フルーティーなものもあり、視覚にも舌にも楽しいのです。
　アメリカンビールの数々も堂々上陸中。日本の湿った夏を忘れさせ、カラッと乾いた大地を想起させるような力強いのどごしのものあり、都会のシャープな味わいとほろ苦さを兼ね備えたものあり、あるいは工場労働者が仕事終わりに浴びるように飲むという苦み控えめなものもあります。さりげなくメキシコ産もアメリカンコーナーに混じって置かれているようです。
　アジアンもお忘れなく！　タイのビールは全般的にアルコール度数が高く、独自の甘味や芳香があったりするのですが、暑い国から来たものだけに、日本の夏にもぴったりの味わい、ハマるとこれ以上のものはありません。舌触り薄口ながらしっかり味わいのあるベトナム産も、ビール好きなら必ず試してほしいところ。本場風にどかっと氷を入れて飲むのもお奨めとのことです。中国産もあります、その爽やかなテイストは、緑色の風が草原を駆け抜けていくよう。
　そんな中、日本産のおなじみの味も、しっかりアピールしているのでご安心あれ。
　ビールが苦手な人には、ワインやカクテルも充実しております。ワインひとつとっても、フランスでもボルドー産とブルゴーニュ産で別ジャンルとして用意されており、イタリア産、スペイン産、南米産、地中海産にアメリカ産など、産地別でしかもそれぞれ数種類揃っているのです。もちろん、ノンアルコール飲料もたくさんあります。
　といった具合なのでいくらか圧倒されつつも、凪がビールの銘柄に迷っていたころ、
「ちょっと休みとれたので気晴らしに……と思っていましたが」
　八咫 鏡も入口のゲートをくぐってガーデンに足を踏み入れたのでした。
「これは、中途半端な覚悟では挑めそうもありませんね」

　鏡の双眸がきらりと光ります。
　山は高いほど登りがいがあるというもの。
　ビールは種類が多いほど飲みがいがあるというものです！