大人の時間はビアガーデン｜リアクション

大人の時間はビアガーデン

　楽しい酒でした。
　いい酒でした。
　伊予祐と霧生渚砂は連れだって、エレベーターから降りてきました。
「渚砂、俺もがんばるからさ、一緒にがんばろーぜ」
　いわゆるメートルを上げた状態で、熱い息を吐きつつ、祐がふらりと歩き出します。いつの間にやら、ちゃっかりと呼び捨てになっているのはご愛敬というやつでしょうか。
「がんばろー！　明日から！」
　笑いながら祐は呼びかけるのです。
　なんだか桃色の月面を歩いているようなふわふわした足取りです。大きくジャンプでもしようものなら、星空に吸い込まれてしまうかもしれません。
「TAS、明日やろうは馬鹿野郎という言葉を知ってるか……」
　渚砂には酔った様子はありません。彼はとうとうノンアルコールを貫いたのでした。
　ともすれば浮かび上がりそうな祐を地球につなぎ止めるかのように、渚砂は力強く言うのです。
「今日だってTASは頑張ったはずだ！　だから今日はお疲れ様！　明日もこの勢いでな！」
「おー！」
　この『おー』が『あー』に変わったのは数十秒後のことです。
「あー！！」
　しまった……と、祐は頭を抱えてしゃがみこみました。
　駐輪場に着いたのです。
　そして、思いだしたのです。
「俺のバカなんでバイクで来ちゃったんだよぉ……飲酒運転ダメ！　ゼッタイ！」
「TASバッチリアルコール入ってるからなぁ……まあ、飲酒運転がダメだとわかってるのは立派だけど」
　ふうと溜息をつくと、渚砂はうなずいて、
「じゃ、お兄さん先に帰るから」
　と自分のバイクにまたがりました。ヘルメットを被ります。
「ううう……お達者で……」
　祐は弱々しく手を振りました。遠くへ旅立つ列車を見送るように。
　ところが渚砂は、バイクのエンジンをかけるかわりにヘルメットを脱いだのです。
　そうして、りんどうの花が咲いたように微笑んだのでした。
「冗談だよ、一緒にバイク転がして帰ろう？」
「ほ、本当にー！？」
　祐の目が今夜、一番輝いたのは言うまでもありません。

　夏の夜風に吹かれながら、バイク転がして歩く帰り道。
　ビアガーデンからの帰り道。
　まだまだ夏は続きます。

　『大人の時間はビアガーデン』　了

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あとがき

担当マスター：桂木京介
ファンレターはマスターページから！

　ご参加ありがとうございました！　マスターの桂木京介です。

　夏の夜の楽しみといえば……という感じで軽く出してみたこのシナリオ、最近はお酒好きじゃない人も多いのでこういうお話は不人気だと思っていましたが、予想外に人気だったようで驚いております。
　キャラクターがおりなす人間模様も、大人中心ということもありこれまでのお話とは違うものがあって新鮮でした。いずれまた、大人キャラクターがメインになるシナリオも組んでみたいと思います。

　事情によりしばらく間を空けることになるかもしれませんが、必ず戻ってきますのでそのときはよろしくお願いします。
　それではまた、新たなシナリオでお会いしましょう。
　桂木京介でした。

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