ある夏の夜に｜リアクション

ある夏の夜に

　気が付くと、堀和哉は森蓮と手を繋いでいた。この状況は、奇妙な夢なのか…それとも神魂とやらの影響なのか、と自答しながら手を離す。すると急に眠気に眠気に襲われた。もう一度蓮と手を繋ぐと、眠気は消え去る。どうやら、手を繋いでいないと寝てしまうらしい。
「神魂の影響で、手を離すと睡魔に襲われるようですね」
　蓮の言葉でやはり神魂とやらだと知る。
「そういや、森とまともに顔を合わせるのはこれが初めてだな」
「そうですね」
「折角だし、散歩しながら雑談でもするか」
「あまり夜更かしして生活習慣が乱れるといけませんが、たまには羽目を外すのもいいかもしれません。警察に補導されないよう、散歩は猫鳴館の近辺に留めましょう」
　蓮の助言通りに、２人は猫鳴館の近くをブラブラ散歩する。
「私が負傷してから、しばらく面倒を見ていなかった裏庭菜園の様子を伺ってもいいですか？」
「ああ」
　和哉は答えて、裏庭へと足を向ける。裏庭菜園は、誰が世話をしていたのか、しっかり手入れがされていた。
「最近、猫鳴館で飼ってる鶏の卵が孵ったらしいが、それにしては鶏しかいないよな」
「鶏舎の卵が孵って、成鳥の鶏が産まれたそうですから」
「いったいどいつが雛なのか、さっぱり見分けがつかん」
「私はいろいろ経験したので、多少のことでは驚かなくなりました」
　そういえば、と和哉は思う。この島だと普通では考えられない超常現象が多発しているらしい。しかし和哉自身は、まだそういう現象にあんまり遭遇していなかった。和哉はそうなのだが、手を繋いでいる蓮はどうなのだろう。
「森はこの島の超常現象にいくつも遭遇しているのか？」
「神魂絡みの事件に関与したことがあるので、和哉さんが興味をお持ちでしたら、私事を守れる範囲でお話しましょう」

　裏庭菜園から離れて、２人は再びブラブラと歩いていた。
「島に来てできたサボり仲間が言うには、超常現象に溢れた世界が、この世界の元ある形なんじゃないかとさ」
「他に何か言っておられましたか？」
「ああ、人間がそれを否定して封じる力が弱まってきたから、溢れ出てきてるんじゃないか、とかなんか深いことを言ってた気がする」
　曖昧な語尾であったが、蓮は相槌を打つように頷いた。自然が人間社会と対立していることを考えると、物事を捉え損ねる恐れがある。人は法律や規則を破ることはできても、自然法則に逆らうことはできない。
「俺としては、たまにある分には面白いとは思うが、多発してるのはどうかと思うんだよな。難しいことを考えるのは苦手なんだが、やっぱりある程度封じておく必要はあるんじゃないかと」
　和哉は一度言葉を切って、息を吐いた。
「人間側の勝手な意見だとか言われれば、返す言葉もないんだが……。なあ、森はどう思う？」
「神魂による現象も、何かしらの秩序や法則性があると考えた方が建設的でしょう。私たちも自然の一部であり、自然と共存しなければ生きていけません」
　もちろん、自然は人間の都合を汲んではくれない。天災で理不尽に命を失うといったこともあるだろう。それでも、と蓮は思うのだ。
「私たちは、自然の枠組みの中で、精一杯頑張るだけです」

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