美味しい実験体験、みんなで実験をしよう！｜リアクション

美味しい実験体験、みんなで実験をしよう！

【カルメ焼き　欲望を具現化するもの、それを冷めた目で眺めるもの】

　次にアガサは隣の組みへとゆっくりと移動した。
　さて、こちらはどうなっているのだろうか？
「……ん？」
　と言いつつ目を向けると化学部員である毒島林檎と目があった。
　そして他には草薙龍八、七音侑、夢宮瑠奈の姿が見える。
　林檎は軽くアガサに目礼をすると実験に取り掛かった。その真剣そうな表情からは心の中の思いなど誰も知る由もないだろう。
（きゃあ～！　授業で甘味食べられるなんて幸せー！！）
　なんて、林檎は思っているのだが、誰も気づかない。
　そしてこちらはこちらで盛り上がっているようである。
「お菓子は最近良く見かけるね、お部屋に山ほど。こないだ新発売のパッキーの新味、既に大量確保されてたよ。なんであのルームメイト、アレであたしより痩せてるのかなぁ」
「うにっ、食べても太らない体質……ってわわっいっぱい泡出てきた！　でもって重曹いれてーおおっ！　膨らんできた！」
「わっ、すごいねぇ」
　とまぁ、こんな具合にお菓子を量産してく。その間に瑠奈と侑はすっかり打ち解けていた。無論、林檎も巻き込まれている。
　その傍らで何やら龍八は何かの本と比較しながら熱心にカルメ焼きを作っている。
　予熱でカルメ焼きを膨らます傍ら、興味をもった瑠奈、林檎、侑が龍八の方を見やる。
（意外、あのひと、すごく真剣だわ……こういうことには全く興味がないと思っていたのに）
　という瑠奈の内心はさて置いておいて、そこに映った光景は……。
　金平糖のピンクのものをカルメ焼きの頂点に一つ半分位埋め込みつつ、次は水飴を弱火で加熱させてハケでカルメ焼きの表面を塗る。
　そんな龍八の姿だった。
　それを瑠奈から聞いて、そっと目で通じた女子３人の結論は……放置。
（うなー……草薙君も男の子だよね）
　と、侑はどうも男子のああいうところはちょっと怖い。
　思っている分とかネタな分はいいよねと、優しい目線をしつつ、これは新たなる龍八の歴史を作るに違いなかろう。
　龍八本人が意図したかどうかは別として……。
「もっかい！　もっかい作る－！」
　と、侑がちょっと固まった空気を仕切りなおす。
「実習だしな……頑張ろう」
　言い聞かせるように言う林檎。しかし、言葉とは違い林檎の内心は……。
（ちゃんとやらない人はアイアンクローでお仕置きだよ♪）
　と思っているのであった。
　現在はガスバーナーが危ないため実施するには至っていないが、実行はカウントダウンに入っているかもしれない、龍八は果たして無事に実験を終えることが出来るのか、それは今のところ誰にもわからない。
「あ、あっれ……あたしってばうっかり」
　そして、瑠奈は瑠奈で頭を抱えていた。先程まではうまくいっていたカルメ焼きが、何故かどんどんべっこう飴と化しているのだ。
「……少しだけ、過程が間違っています」
　横からアガサがすっとアドバイスをする。
「あ、そうだったんだねぇ、なるほど……ありがとう先輩！」
「ん……」
　シュタッ！　と軽く手を挙げてどこか嬉しそうにアガサはそのお礼に応じ次の組を見るために去っていった。
　そのアガサの背中を見つつ、林檎も侑もなるほど、とそのアドバイスに納得していた。
　やはり、さすがの化学部部長である。
「うにっ、さすがの先輩もあれには触れなかったにー」
「……実験の過程そのものは、間違ってないんだな」
「なんだか色々と違う気がするねぇ、あたしは」
　龍八の方を指しつつ、３人は顔を見合わせる。
　林檎と言わず女子はひょっとしたら心の中ではきっとこう思っていることだろう。
（何事もやりすぎはよくないよね）
　そう言いつつ、まずはお菓子をたくさん作ることを優先したのであった。
　ちなみに、その話題の中心人物の龍八はというと。
「冷え始めるとツヤが出るのか……注意点は薄く塗ることで、この塗り方で中毒性が決まると。なるほど……」
　と、五十嵐先生のように実験の世界へと埋没していたのであった。

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