変態の軍隊 Reloaded｜リアクション

変態の軍隊 Reloaded

【黒幕の影】

「こんなところか」
　星ヶ丘寮の一角、海望む丘の部屋・アトリエ『魔女の座』で銀髪の少女はねこったーから一時離脱する。
　既に証拠隠滅は完了した。
　多少は足取りを追える要素を残していても、それが自分自身へ繋がることはまずないだろう。
　念のため、IPアドレスもわざわざ海外経由で接続する念の入れよう。
　タイムラインは見事に炎上したが、既に市街地では変態と撲滅団と風紀委員の三つ巴の激しいバトルが繰り広げられている。
　銀髪の少女は思う。

・ＰＥＣが強すぎるのは良くない。自由なのは良い事だが自由の中にこそ規律が必要だ（カオスダーク）
・撲滅団が強すぎるのは良くない。変態相手なら何をしてもいいという思想は危険である（ロウダーク）
・風紀委員会が強すぎるのは良くない。規律はあれど緩やかに（ロウライト）

（現状は風紀委員会がやや弱い印象を受けている。故に撲滅団が発生してしまっている……）
　銀髪の少女――今回の黒幕は、巷で暴れている面々の情報を収集し、ねこったーやネットの掲示板で『彼ら１人１人を個別の目的を持った黒幕』に仕立て上げることに成功。
　あとは共倒れになった変態と撲滅団を、風紀委員が捕縛すればシナリオ通り。
　しかし、やはりそうはいかなかった。
　彼女と同じことを考え――更に３者とも自滅させようとする者が、現場で暗躍している。
　きっと、本性を隠して何食わぬ顔で風紀委員側にでも付いているに違いない。
　その者は風紀委員に対しての情報に目ざとく反論してくることから、彼女は推理していた。
（舞台は用意した。だが脚本ないから後は演者達のアドリブが生じる。思った過程＜シナリオ＞と違うものが生まれるのは当然だな）
　それでも彼女は焦らないし、この状況を厭わない。
（私は勝手に集まる噂・情報を聞き編物しながら、この舞台を鑑賞するとしよう。所謂カオスライトの立場ってやつだ）
　彼女は唇を歪めると、ベランダに出て外の風景を眺める。
　その視線の先には、軒先にたなびく七色の毛糸のパンツ。
　しばらくして部屋主が毛糸のパンツに気が付き、絶叫していた。
（星ヶ丘寮へようこそ、芽森菜々緒。私のドッキリ企画、気に入ってくれるといいのだが）
　黒幕は引っ越してきた彼女へのドッキリとして、変態たちを巻き込んでの騒動をプロデュースしたのだ。
　つい数時間前、彼女は菜々緒宅を訪問。
　引越し祝いの焼きたて食パン２斤をプレゼントした際に、隙を突いてパンツをすり替えた。
　その後、レインボーパンツの噂をPECに流し、更にPECが動くことを匿名で桐島先生にタレコミ。
　更にネットを駆使して撲滅団の面々を煽り、全てをぶつけさせていた次第である。
　変態たちにしたら迷惑な話だが、先述の彼女の思惑もあって一石二鳥の企画だ。
　食パン２斤も、パンが２個＝パン・ツーという意味だ。
（あとでこの紙袋の中にある、すり替えた菜々緒のパンツ数点を返せば、ドッキリ成功だ）
　銀髪の彼女は、確認のため紙袋の中身を改めた。
「……なんだ、これは？」
　紙袋の中にあったのは、どら焼きだった。
　菜々緒のおやつと間違えて持ってきてしまったようだ。
　じゃあ、パンツはどこへ？
　部屋主の様子では手元にないようだから、要は紛失したことになる。
「……うむ、カオス要素が増えたな」
　銀髪の少女――旅鴉月詠は平然とクールな態度を崩さず、再び状況を観察しだす。