【奇襲】

　寝子島漁港の廃倉庫。
　桃色スーツに身を包む横嶋 下心隊長は、集うPEC隊員たちを鼓舞すべく、力強い演説を始めた。
「俺達の活動を阻む最大の壁は何？　風紀委員？　警察？　変態撲滅団員？　いや、全然違うね！」
　横嶋はおもむろに天を指さした。
「俺達を阻む最大の壁、それはこの世界の倫理観という名の壁！」
　団員たちは隊長の出した結論に「ざわ……」とどよめいた。
「世界の壁……俺は『ロックでアメイジング且つ際どいアレ（見ちゃイヤ～ン♪）』と名付けた。ローマ字の頭文字を取って、RAKKAMIの壁だ！」
「「RAKKAMIの壁……！？」」
　その単語に、PEC隊員は電流が走る。
「そうさ！　俺たちは知らず知らずのうちに、このRAKKAMIの壁にエロいことを阻まれ続けていたんだ！」
「な、なんだってェーッ！？」
　ホビットこと七峯 亨が体を仰け反らせながら驚愕！
「ファファファ……。それが世界の隠された修正力というやつじゃな？」
　だが厨二病が若干混じっている紙袋さんこと初島 優は、驚かずに腕を組んで納得していた。
「どーりでおかしいと思ったよー☆　PECが活動すると必ずお邪魔虫が出てくるのは、そういう事だったんだね！　そらりん覚えた☆」
　変態☆魔法少女★そらりんこと桃原 空音（おっと中の人なんていないよ？）も世界の構造に異論は無いようだ。
「でもそらりん挫けない☆　マジカル☆ショータイム始めちゃんだから！」
　猫耳お面を被る彼女だが、そこから漏れる吐息が既に荒々しいのは興奮しているからだろう。
　横嶋は拳を握り締めると、高々と宣言した。
「俺はこの越えられない壁に挑み続け必ず突破してみせる！　みんな、桃色破廉恥小隊、出撃だ！」
「「オッパイ！」」
　一致団結する団員たち。
　そのとき、穴あき桃色スーツ着用のミス・マゾッホ（忍足 春）が倉庫入口へ視線を移した。
「紙袋さん、もしかして、ここの入口に罠を仕掛けましたか？」
　問い掛けられた紙袋さん、誇らしげに胸を張ってみせる。
「ミス・マゾッホよ、よく気が付いたな！　念のため、我は廃棄されていた投網を入口の真上に仕掛けておいたのだ！　侵入すると網が頭上から落下する仕組みである！」
「流石だぜ、紙袋さん！」
　龍神こと冴木 竜司がサムズアップで褒め讃えた。
「龍神よ、だがこの程度の子供騙しは焼け石に水であるぞ。仕掛けておいてなんだが、こんな罠に引っ掛かる輩は、我等を狩る気満々で頭に血が上って冷静さを欠き、考えなしに空き倉庫に突入するようなお馬鹿さんだけだろう」
　やれやれ、と肩を竦める紙袋さん。
　だが、ミス・マゾッホは声を震わせながら紙袋さんの体を揺らした。
「あの……、お馬鹿さん、いたようですが……？」
　PECたちは入口へ見向いた。
　そこには、なんと！

「いや～ん♪　開幕緊縛プレイなんて刺激的すぎィ～ん♪」

　金髪巨躯の色々と失敗したオカマが投網の中で蠢いていた！
「「いきなりアウトーッ！」」
　PECは恐怖で慄いた！
　ゲイバー『ジオフロント』のママ、ミッシェル・ナイスゲイが出オチ奇襲！
　しかし、間一髪、紙袋さんの罠が仲間を守ったのだった！
「も～ぅ、何よ、この網～！　セイハーッ！」
　だが、ミッシェルが裂帛の気合の雄叫びを上げると、網を突き破ってPECの前まで飛び出してきた！
「はぁ～い♪　ピンクボーイたち？　クルミは割らずに、ソーセージと一緒に舐めて愛でるものよ？　優しくしてア・ゲ・ルわ～ん♪」
「うわああぁぁああぁぁ！　風紀委員や変態撲滅団以外にも俺たちを狙っているなんて！」
　ホビットは漂うオトメ♂オーラに顔を青くした。
　そらりんは「え？　掘るの？　掘っちゃうの？」と首を傾げている。
　隊長の横嶋は恐怖心をグッと堪えながら仲間を庇うように前へ出た。
「仲間には指一本触れさせない！」
「隊長、水臭いぜ！」
　龍神も横嶋の横へ並び出た。
「俺だって仲間を守る覚悟は出来てるぜ！」
　迫り来るミッシェルから仲間を守るべく、２人は臨戦態勢へ。
「あらぁ～ん？　２人ともイイオトコよん♪　そっちの素顔を晒したイケメン君のソーセージを吸引してあげるわ～ん♪　バタフライマスクの君のソーセージもアタシの雄っぱいで挟んであげたいわん♪」
　クネクネとしながら何故か脱衣前進するミッシェルに、横嶋と龍神は思わず股間をガード！
　ミッシェルは舌なめずりを始めている。
「私も脱ぎます～！」
　相手の脱衣に即発され、ミス・マゾッホが桃色タイツを破り捨て始める。
　既にカオスの状況下でミッシェルは得意げに語り始めた。
「そこの紙袋さんが言ってたわよね？　『我々はハメられた』って！　そうよ！　アタシが今からハメてあげるわぁん♪　殆ど違法な前後運動で！」
「そういう意味ではないのだが！　ええい、隊長たちを襲うなら我が人身御供に！」
　紙袋さんが一歩前に出ると、オカマを前にして後ろを向いて前屈みに！
　ホラレル！
「ん～？」
　しかし、ミッシェルは紙袋さんの尻をしげしげと眺めると、そのまま素通り！
「なん……だと……？　スルーだとぉ？」
　紙袋さんの顎から汗が滴り落ちる。
　ちなみに紙袋マスクの内側には蝋が塗られており、汗をかいても快適なのだ！
「いい事を教えてあげるわ、ボーイ」
　ミッシェルは振り向きながらズキュンッとセクシーポーズ！
「アタシはショタ（少年趣味）に興味ないのですわ～ん！」
「我がショタと申すかーッ！？　許さん！」
　嗚呼、低身長男子、高校生なのにショタ認識されるの巻。
　普段から一人称『俺』と言い張るくらいの男子度はあると思っていた紙袋さんの怒りは頂点に達する！
「何たる狼藉！　これでも喰らえ！」
　彼は被っている紙袋に手を突っ込むと、白い粉末の入った小袋をミッシェルの顔面に散布！
「PEC奥義、ホワイトスパイス！　さぁ、皆の者、今のうちに脱出するのだ！」
「いや～ん！　ゴホゴホゴホ！」
　実はただの小麦粉を厨二病っぽく叫びながら目潰しを敢行。
「というかそこ、収納スペースだったんだね☆　そらりんビックリ☆」
　そらりんの指摘に、紙袋さんは「我の紙袋は真理＜ドグマ＞だ……」と謎の名言を残した。
　こうしてミッシェルが咳き込んでいる隙に、彼らは廃倉庫を脱出した。
　だが、一難去ってまた一難。彼らの前に新たなる敵が現れる！