星ヶ丘教会のお茶会｜リアクション

星ヶ丘教会のお茶会

　賑やかに楽しい時間が流れていた。
　このまま何事も無く、教会のお茶会は盛況のうちに幕を閉じるのだ、と誰もが思っていた、が。

「……あの、少しご相談があるのですが」
　アイスティーで唇を湿らせたロザリーが不安そうに口を開いた。
「まぁ……私でよければ聞かせてくださいな」
　胸の前で祈りの形に手を組んだゼシカが心配そうに見つめる。
「最近、お兄様が遠くへ行ってしまったような気がするの」
　悲しげに目を伏せる姿は雨に打たれる花の様に儚げだ。
「それは一体どうしてですの？」
　柔らかいゼシカの声がそっと先を促す。
「私が心配して無理をしないで、と伝えても、大丈夫だからってお兄様は言うのよ。だけれど、その声はすごく冷たくて……」
　兄の声を思い出したのか不安を耐えるようにロザリーの唇が引き結ばれる。
「忙しいから、心が荒んじゃったのかしら？」
「もし、それほどまでに大変な状態でしたら、お兄様は少し余裕がないのかもしれませんわね」
　ゼシカの相槌に頷いてロザリーがため息をつく。
「そうだとしたらとても、気が気じゃないのだわ……だって、優しいお兄様が私に……私に、あんな声で」
「少し時間を置いてみてはいかがですか？　もし、お忙しくていらっしゃるなら落ち着かれたらきっとゆっくり話して下さいますわ」
　ゼシカの言葉に、悲しげだったロザリーの表情が少し明るくなる。
「そうよね、きっと……」
（でも、もし時間がたっても……ううん、そんなことない）
　消しきれない不安を飲み込んで、ロザリーが立ち上がる。
「ちょっと、暖かい飲み物を取ってくるわ」

　一方。
「恋愛なんて一部のスペック高い人達の特権だよ……」
　ストローから口を離した鴇波が、どんよりと影を背負ってテーブルに突っ伏した。
「え、羽衣ちゃん？」
　十文字が突然の事に驚いて瞬く。
「あたしのような子供には十年早い……ううん、一生無理だよ」
「ずいぶん悲観的だな」
　旅鴉がスケッチブックを閉じて、急に落ち込みだした鴇波に向き直る。
「だからデートしたって全然意識もされない……せっかく、若菜せんぱいがアドバイスしてくれたのに」
　旅鴉の声も届かないのか、ぶつぶつとネガティブな発言が続く。
「とりあえず、甘い飲み物でも飲んで落ち着いたらどうだ？」
　上穗木が山ほどの砂糖を入れた紅茶、否、確かに紅茶であったもの、を勧める。
「ありがとう……」
　突っ伏していた鴇波が上体を起こし、カップを受け取る。
（あれ……あたしなんてこと言っちゃったんだろう！？）
　甘い、としか言いようの無い液体を飲み込んだとたん、霧が晴れる様に暗い気持ちが消えていく。
（前向きなのが取り柄だったのにきっとみんな幻滅してる……！）
「羽衣ちゃん？　大丈夫？」
　青くなったり赤くなったりする鴇波に、十文字の眉が心配げに下がった。
「！」
　それが決定打だった。
「あ、の……あたしちょっと向こう行ってみるね」
「羽衣ちゃん！？」
　引き止める声も聞かず、立ち上がると鴇波は駆け出した。恥ずかしくて、居たたまれなくて、どうしてもあの場に居られなかった。