「さてさて、こちらは今回の本隊とも言えるPT、【アーティ】です。一番参加人数が多い分、バラエティに富んだ構成ですね！」
　移り変わった画面には、軽やかに肉食獣型の敵の爪を避け、反撃するラッセルや派手なエフェクトの魔法を繰り出す伊織たちの姿が映っている。

（この程度なら、なんて事はないな）
　悠華を操り的確に回復や補助魔法を掛けていく裕也。
「すごいわ悠華さん。MMOとか慣れてるの？」
　パリィを発動して敵の攻撃を受け流しながら、アリーセが感心したように言う。
　これなら彼女も剣士として専念出来る。
『うん、よくプリーストとか回復系で遊んでるから、任せてよ！』
　慣れてるといっても、ようするに姫系のアレがアレなのだが、やるべき仕事はきっちりこなす。
（今回はアーティがいるしな）
　アーティの様子を確認すると、彼女は彼女で辞書型のデバイスを手に敵のサーチとアナライズを続けている。
　初めてにしては上出来なくらいだ。

「あと少しで断曲を張り直せる」
「了解っ、それまで任せとけ」
　ジャンクデータのようなエフェクトの魔法を放ちつつ時間を見計らう修に、ラッセルは肩越しに言った。
「もう少し使用レベルを下げれば効果時間よりもディレイが短くなる地点があるようだ。忙しないが、こまめに張っていくしかないな」
　彼の『空間断曲』は空間を捻じ曲げて異空間に繋ぎ、敵の進攻と攻撃を一切シャットアウトする強力なものだが、その分消費SPが多い。
　同じ場所に複数設置する事が出来ず、効果が切れた後再び同じ場所に展開出来るまでのディレイ時間も長く使いどころが難しかった。
「アシストします。大きいの、頼みますよ」
　アリーセの声に、仲間たちは強力な攻撃を放って敵の数を減らした。
「行けっ！」
　深雪の号令で神獣が雌獅子姿の敵に喰らいつき、彼自身も大剣で大振りの斬撃を加える。
　断末魔の代わりにあぶくを吐いて、緑の粘体に戻ったモンスターは消えていった。
「草食獣型の動きは、これで止めますわ！」
　伊織が開いた辞書のページがさーっと捲れ、標的の周りに氷の粒が集まっていく。

「……彼の者を凍てつかせよ、フリーズバイト！」
「小麗！」
　凍り付いていくモンスターの姿に、アリーセが鋭く呼ぶ。
「いくのだ！」

　その身を薄く縁取るようなオーラに包まれた小麗が、独特の構えから流れるような動作で駆ける。
「おおっ、朝公園でおじいちゃんとかがやってる体操の早送りだ！」
　あぶれたモンスターをトラバサミのトラップで足止めしながら、エスカルゴが声を上げた。
「やーッ！！」
　小麗が気を漲らせた掌を突き込むと、纏わり付いた氷ごとモンスターは砕け散った。

「小麗さん、かっこいい♪」
　囃すアリーセに、小麗はテレっと目尻を下げた。
「褒めても肉まんしか出せないのだ」
「出るの？　肉まん出るの！？」
　驚くエスカルゴに、悠華は頭上に音符のエモーションを浮かべる。
『校長先生ってば、さっきから合いの手が上手だね！』
「なんかつい、ね」
　戦闘では派手な立ち回りのない盗賊だけれど、その突っ込みが存在感を打ち出しているエスカルゴだった。
「いやー……偵察ついでに足が嵌っちゃうとこ、罠解除で埋めてくるよ」
　戦闘が終わると、彼は宝箱や扉が見当たらない分地味になりがちな仕事に手を付ける。
「こういう地道なのが何気に大事なんだよな～」
「お気を付けて」
　彼を見送ったアーティが溜息をつく。
『どうしたの？』
　悠華が尋ねると、アーティは眉を下げた。
「わたし、守られてばかりで……これでいいのかなって」
　皆と戦えないのは辛いのだろう。
『大丈夫だよ、アーティちゃん索敵とか解析とかすごく頑張ってるよ。僕たちも助かってるんだから！』
「そう、ですか？」
『そうだよ！　だから、守ってくれる人の前では堂々と可愛くしてればいいの！　これ、姫キャラの大事なところ』
「ひめきゃら？」
　目を瞬かせるアーティに、画面の外の裕也はフフッと笑った。
『そう、可愛い子が一生懸命応援してくれたら、みんな頑張りたくなるでしょ？』
「なるほど……わたし、頑張ってみますね！」

　一戦交えて、一行はSP回復までの間小休憩を取った。
『Lechatさんの新作、いつも可愛いよね～。この間のも全色買いたいくらい☆』
「悠華様、とってもお洒落ですよね」
『アーティちゃんは普段着てるの以外だったら、どういう服が好き？』
「可愛いのも好きですけど、この間伊織様が着ていらした制服みたいなのもいいなって」
「まあ、では今度着てみません？」
　女の子たちは可愛い服やお洒落の話で盛り上がっている。
「あ、深雪様の衣装も素敵ですよね」
「俺？」

　小耳に挟んで和んでいたら、自分に飛び火してきた。
『男装の麗人なアーティちゃんかぁ……あると思います』
　アーティは可愛い服だけでなく、色んな格好をしてみたいようだ。
「良いんじゃないか？」
　深雪が笑むと、彼女も嬉しそうな顔をする。
「とりあえず、無事に帰ったら俺のピアノ聴いて貰うからな、その時着る服も考えておいてくれ」
「はい！」
「楽しみにしとけよ」
「はいっ！」
「あ、SP大分回復しましたわ」
「俺ももう行ける」
　伊織が申告すると、修もスッと立ち上がる。
「あの、修様」
　歩き出す一行の中、アーティは傍らに添う修に声を掛けた。
「わたしたちのこと……あまりお気に病まないで下さいね」
「だが……」
　彼女はゆっくり首を振って微笑む。
「修様には本当に感謝してるんです。お二人の言葉がなかったらわたし、きっと今もお店に残っていたでしょう。独りで……他のマヌカノイドたちがどうなったか、皆さんがどうしているか、震えながら想像しているだけだったと思います」
　もしそうなっていたらと、少女の顔は寂しそうに歪む。
「……でも、そんなのはイヤ。助けたい人たちの為に出来る事があるのに、何も出来ずにいるなんて、きっとそちらの方が耐えられません」
　心情の吐露を耳にすれば、彼女の意思に手を差し伸べた際の心と、今死線に晒しているという思いが修の中でせめぎ合った。
「壊されてしうまうかも知れないなんて、確かに怖いです。でも……悪い事ばかりじゃないんですよ」
　今までなかった『マヌカノイドを脅かす存在』が現れた事によって、自分たちは擬似的に死という概念を獲得したのだと、彼女は胸を押さえながら呟く。
「不謹慎かも知れないけど……今すごく実感してるんです。わたし、生きてるんだって」
　アーティの瞳は、初めて会った時よりも輝きを増しているように見えた。
　死を知って生の喜びを感じる事が、彼女の心を更に成長させているのだろうか。
「本当に人間と変わらねぇよな」
　肩越しにチラリと振り返った深雪が、目を細めた。



◆クラス紹介

・盗賊（シーフ）
　強奪を働く犯罪者の技術を、冒険に役立てる立ち位置にあるクラス。
　AGI（素早さ）とDEX（器用さ）に特化しており、戦闘よりも探索や罠の設置・発見・解除、隠された扉を見付けたりなどのサポート面で活躍する。
　盗賊の代名詞『スティール』で金品を持っている敵から盗み取る事が可能だが、肝心の敵が未実装。

・遊撃手（レンジャー）
　弓や銃などを用いて戦う、偵察や奇襲攻撃に長けたクラス。
　その性質やスキルの内容的に盗賊やスカウトとしばしば被る為、特徴が抜きん出ている盗賊はさて置き、スカウトとは統合するかどちらかを上位職にするかなどで今後議論の的になりそう。