こんな綺麗な空の下｜リアクション

こんな綺麗な空の下

　　【絆の猫シール】

　そんな光景の合間の出来事。
　恵御納夏朝、その少女の左手にはいつものパペットのにゃんこも一緒であったが、
　「ここ、どこだろう……」
　起した上半身の側を、暖かな風が通り抜けて、草原に吹き付ける。
　その度に鳴る草の音がとても心地良くて。
　ついもう一度お昼寝したくなったが、広がる緑が気になって、夏朝は少し散歩をしてみる事にした。
　空気が綺麗だ。
　危険な場所ではないのは何となく分かる。

　どこまでも広がる草原と少し離れたところに見える丘と樹。
　歩いていると、ふと、二本足で立つ黄茶色の猫の姿を見つけた。

　「ニャ？　少しヒビが入っているニャ。でもこの位なら直ぐに修復できるニャ」
　少し悩んだ様子の王さまの独り言を聞きながら、邪魔にならないかなと思いつつも、同じ猫なら挨拶せずにはいられない。
　それは猫の王さまで、前に一度会っているからだ。
　覚えていてくれているだろうか、様々な思考が交錯する。
　「こんにちは…
　猫の王国の、王さまですか？」
　「ニャ？」
　二本足の猫が真っ直ぐな瞳でこちらを見つめてきます。

　「こないだ、ねこシー……」
　「ああっ、誕生祭の来客にゃ！　『カーサ』ニャ！　あの『シール』というのは１枚だけ使って、あまりに便利で勿体無いから宝物庫に納めてあるニャ！」
　「あ、まだたくさんあります。お土産に、どうぞ」
　「本当かニャ！？　素晴らしいニャ！！」
　猫の王さまは目の前の結界魚の事も忘れて、飛び跳ねるように嬉しそうに夏朝の猫シールを丁重にトートバッグの中に入れていく。

　「何、してるんですか？」
　「ニャ？　……隠していたけれども、もう皆に話してしまってもいいにゃ。
　この空間には、透明な結界魚っていう宝珠があるニャ」
　王さまが何も無い空間に触ると、何と見えないところがほんのりと光り出したではないか。
　「ここにヒビが入って光がまあるくない所が見えるニャ？
　それを『肉球布』でこしこしすると……」
　王さまがトートバッグから取り出した肉球布と呼んだ布で軽く擦ると、ヒビ入った所が少しだけ光を取り戻した。
　「これを繰り返していくだけの難しいお仕事ニャ」
　「あ、あの。やってみても、いいですか？」
　「もちろんだにゃ。これが予想以上に精神力を食うから気をつけるニャ」
　夏朝が言われたとおりに、先程王さまが手を当てていた所に、自分の手を当てると確かにそこには『何か』があった。
　さっそく拭くと光のゆがみが消えてまあるくなっていく。
　その代わり、夏朝にどっと原因不明の疲れが押し寄せてきた。
　「普通のひとなら、１日１玉だニャ。
　容量用法を守って正しく拭いて下さいだニャ」

　「もふもふ……もふもふ……！」
　しかし、夏朝はその疲れを目の前の王さまのもふもふの毛並みに埋もれる自分を想像して、その倦怠感を吹き飛ばしたのである。恐るべしにゃんこへの煩悩パワー。
　
　「最近、結界魚の調子がおかしい気がするにゃ。気のせいだと良いニャ。
　本来入れないところにも、こうしてカーサがいるにゃ。
　……カーサが住んでいる世界はどんな所かニャ？」
　ふと、王さまは夏朝に尋ねました。
　夏朝はしばし考えてから答えます。
　「寝子島は…変わった事も色々あるけど、楽しいよ」
　「……楽しいところかニャ。それは良かったニャ」
　その時、夏朝は目撃しました。
　猫の王さまが、少し寂しそうに、ここではないどこかを見ていたことに。

　王さまが別の所の結界魚を見に走り去っていった後、丘の上の樹には人が集まっていました。
　風が届けてくれる声でどうやら「２人以上」「樹を揺する」「綺麗な石」という声が聞こえてくる。
　「(…僕も欲しい、かも…)」
　ちょっとだけ思いましたが、今の夏朝にはその手段がどうも足りなさそうだった。