マダム千代子と永遠のブルー｜リアクション

マダム千代子と永遠のブルー

　シン、と沈黙が訪れた。打ち払ったのは、ムードメイカーのしおり。
「あ、ココア！　冷めないうちに、どうぞ。
　冷たいものの後には、あったか～いもので芯から癒されちゃってください♪」
　しおりが肉厚の白いカップを、軽く掲げて、皆もココアに手を伸ばす。
「今日の観光はどうでした？　聞かせて欲しいな」
　千代子の腕に捕まって、無邪気におねだりするしおり。
　しおりは知っているのだ、今日の千代子に悲しい顔が相応しくないという事を。
　千代子も「そうね、何からお話しましょうか」と、話に乗る。
　しおりは千代子の話に相槌を打ちながら、ささやかで大きな喜びを、分かち合った。
　アリーセも場がしんみりしてしまっていたのに気付いて、努めて明るい話題を探す。
「私は和菓子も好きなんですけど、千代子さんはお気に入りの和菓子はありますか？」
「和菓子なら……練りきりが好きですわ。一つ一つが繊細で、可愛らしくて。
　作った職人さん達の、食べる人を目と舌の両方で楽しませようって心を感じますの」
「確かに。私のお気に入りは、わらびもちと水饅頭ですね。プルプルしてて可愛いから」
「私も、水饅頭はつい揺すってしまいますわ」
「千代子さんもなんですね」
　くすくすと、乙女は笑う。

　しおりも、今日、ゴローに会いに行った事や、ratonの厨房で荒井景貴や宮島メグと、どのように過ごしていたかを、語って聞かせた。
　楽しそうに耳を傾ける千代子を見ながら、しおりは願う。

　千代子さん、皆に愛されてる事を実感してくれてるといいな。
　瑞々しい青春時代は、確かな現在と希望の未来へ、ちゃんと繋がって行くって。
　思ってくれたらいいな……。

　流れに、首を傾げていた新江天懸も、指から伝わるカップの暖かさに、昼間、落神神社へ参拝した時に繋いだ千代子の手の暖かさと、力強さを思い出して息をついた。
「何か、良くわかんねえすけど……頑張ってください。俺も、応援してるっすから」
「ありがとう、天懸くん」
「あ、良かったらメルアドとか、交換してもらってもいいっすか？」
　ちゃっかり提案すれば、千代子は笑顔でそれに応じた。

　そうして、パーティはお開きに。
　改めてお礼を言う千代子に、メグはアールグレイの茶葉を手渡した。
「こちら、先ほど召し上がっていただきました……お茶の葉です～」
「まあ、いいの？　ありがとう」
　景貴も綺麗にラッピングした箱を出してきた。
「特別に作ってみました」
　それはビターチョコのガナッシュを使ったオーソドックスなショコラ、木苺の甘酸っぱいガナッシュをビターチョコでコーティングしたフランボワーズショコラ、そして和菓子も好きなアリーセが提案した、きな粉と黒蜜を練った物をミルクチョコでコーティングした、きな粉ショコラの詰め合わせ。
「私のために作ってくださったのね。ありがとうございます」
　丁寧にお辞儀をした千代子は、満面の笑み。
「そうね、これは後のお楽しみにとって置きますわ」
「ちよちゃん……」
　見上げる真央の髪を、千代子は撫でる。
「大丈夫。食いしん坊の私としては、これを食べるまでは死んでも死に切れませんもの」
「私も負けていませんよ……？　また、美味しいチョコレートを食べに、お出かけしましょうね……」
　おどけてみせる千代子に、時子が乗って、一同も笑顔を貰う。
「コラージュは後日郵送しますよ」
　月詠が約束し、思い出を胸に、一同は帰路についた。

「かげちゃん……マダムげんきになるといいね～」
　立ち去る人々を見送って、メグは言う。
「そうだね、また遊びに来てほしいね」
　可愛い従妹に相槌を打ちながら、景貴もエールを送る。
「さて、店じまいだ。メグちゃん、もう少しだけ、お手伝いいいかな？」
「うん！　私、まだまだ頑張れるから、かげちゃん頼っていいよ～」
「ありがとう」
　やる気を見せるメグに、景貴は心からの感謝を告げた。

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