三下家の大奥様、マダム千代子が終末医療の果てに、次男の別荘がある寝子島に移り住んだのは、夏の初めの事であった。
何不自由ない生活を送りながら、家族はそれぞれが多忙で、あまり会えないのを寂しくないと言えば嘘になる。
けれど島に来て新しく出来た、若く親切な友人達は千代子を気遣い、定期的に見舞ってくれる。
千代子は自分を、不幸だとは思わなかった。
残り少ない命を、ただ感謝と共に過ごしていた。
だが、そんな心境にも変化が現れていた。
「いつか一緒に、お散歩しましょうなのだ♪」
雨上がりの休日に、窓辺に残されたハートの一筆箋に、籠められた少女の願い。
だが、例え手術を受けて痛い思いをしたとしても、助かる見込みはない命だからと諦めていた。
けれど、彼女は少し欲張った。
一日でも、二日でも長く生きていたい。
千代子はとうとう、
手術を決意した。
手術の日が迫り、眠れぬ夜、千代子は月に向かって祈った。
「神様、私に友人との約束を果たす力を、お与え下さい。ほんの一日だけでも構いません……」
――そして、奇跡は起こる。
千代子が朝、目覚めた時、体は驚くほど軽かった。
大きな窓から覗いた青空の、なんと澄んで美しいことか!
それだけではない。
すらりと伸びた手足に、シミは一つも見当たらない。
恐る恐る、ベッドから一歩を踏み出す。
歩く事も、いや、望むなら走る事も、今や思いのままだ。
壁に掛かった鏡に己の姿を映し、千代子は感極まった。
彼女は瑞々しい肌と共に、健康と、溢れる若さを取り戻していたのだ。
「神様、ありがとうございます――!」
スマホの突然のコールに、白黒ぶち猫を構っていた
後木 真央は飛び跳ねた。
「ファッ!? ほ、ほんとにマダムちゃんなのだ!!?? どうしちゃったのだ、何だか別人みたいに声が若々しいのだ!!」
良家の夫人らしい、の~んびりした話し方は相変わらず。
けれどマダムの声は、弾んで随分と若々しく聞こえ、真央は驚愕した。
「うふふ。突然お電話なんてして、あつかましくてごめんあそばせ? もし真央ちゃんさえ宜しければ、今日一日、寝子島をご一緒に回ってみませんこと?」
何か色々、良く分からないが……状況を聞くに、これは神魂が起した事なのだろう。
少なくとも、千代子にとって千載一遇のチャンスである事は間違いない。
真央は首を、がくがく振って頷いた。力強く、スマホを握り締める。
「いま理由なんて、どうでもいいのだ! 真央ちゃんマダムちゃんと、一日たっぷり遊び倒すのだ! こうしちゃいられないのだ皆も呼ぶのだ~!!!」
メシータです。
このシナリオはマダムキラーの、続編となっております。
シナリオ概要
■NPC三下 千代子は末期癌に侵された老婦人ですが、神魂の影響で一日だけ若さと健康を取り戻しています。
■彼女と一緒に『寝子島で』楽しい思い出を作るのが、当シナリオの目的です。
(シナリオの進行はマダムの進行ルートに準じますが、描写はPC主体で行っていきます)
■マダムの食事会に参加された方、全員に声が掛かっていますが、関わり方は自由です。また参加されていない方も、奮ってご参加ください。
【行動例】
・お店番をしていたらマダムがお買い物に来たので、接客する
・マダムがゴロツキに絡まれたので、先に行かせ裏でそっとシメあげる
・マダムをお勧めの場所に案内する
(参加されていないPCさんをリアクションで描写する事は出来ませんので、ご注意ください)
■観光でかかる費用は、千代子が全額を負担するので、気にする必要はありません
■マダムが行く場所は、参加者様の意向で決まります
■行く場所が多いと、一シーンごとの描写が薄くなりますので、ご無理のない計画をどうぞ
(!)POINT
■このシナリオでは、最後にマダムの手術の結果が出ます
マダムの心身の充実度などで、成功率が変動します
■登場NPC
・三下 千代子(マダム千代子)
『ひと』です。
高齢ですが、神魂の影響で、20代半ばの若さになっており、今日一日は健康体です。(病巣は今だけ消失しています)
ご年配の婦人向けの、お堅いデザインの紺のワンピースを着ています。
身長168cm、ダイナマイツです。看護師の拝島 薫に似ていますが、薫よりずっと女性らしい魅力に溢れています。(ちなみに薫は勤務中のため観光には同行しません)
あだ名が、マダム・ショコラ(チョコレート)だったほどチョコレートが大好物です。療養中、食べれなかったので食べたがっています。
このシナリオの結果、千代子の病気が悪化する事はありません。好きなものを食べさせて、大丈夫です。
【PL情報】
深夜2時頃に、マダムは元の姿に戻ります。
・その他NPC
通行人、お店の人などが必要に応じて登場します。
それでは、お気に召しましたら、ご参加くださいませ。