厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。｜リアクション

厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。

●お食事は楽しんで

　テーブルを飾るお料理からお料理へ視線を移しながら、宮祀智瑜は微笑んだ。
　そしてこっそりと写真を撮る。あとで祖父母に見せてあげたくて。
「美味しそうなものばかりで目移りしちゃいますよね」
「……ほんとねぇ～」
　けれどそれは甘祥子も同じらしい。
　ため息混じりで頷いている。
「でも、カロリーとかもきになっちゃって」
「ふふ、智瑜ちゃん、女の子ねぇ」
「そ、そういうわけじゃないんですけど……！」
　からかうような口調だったので、深く考えずに否定してしまったが、たしかに智瑜は『恋する』女の子だった。
（……す、好きな人は、いますけどっ）
　とにかく話題を変えようと、智瑜は甘喜好に話を振る。
「喜好君は苦手なものとかあるかな？」
「え、えっと、お野菜はあんまり……」
「喜好！　ちゃんと野菜も食べるのよ」
「う、うん」
　子供らしいと言ったら喜好は頬をふくらませるだろうけれど、そういう一面を見て、智瑜はほっとする。
　彼はいつも大人ぶろうと頑張っているから。
「智瑜おねーちゃんは、嫌いなものとか、ないの？」
　恐る恐る尋ねてくる喜好に、智瑜はやさしく答える。
「私は好き嫌いはないよ」
「……そうなの？」
　それでも半信半疑の喜好。
　智瑜はすこしためらいながら「作ってくれた人に感謝を、って両親から言われてたから」と告げた
　喜好はその言葉を自分の中で噛みしめるように俯いてから、勢いよく顔を上げて、智瑜を見上げた。
「ぼ、僕も頑張る！」
　無理をしている表情が可愛くてついつい智瑜は笑ってしまった。
「無理はしなくていいからね」
　そう言って智瑜がみょうがのサラダを取ると、「お、大人だ……」と喜好はぎゅっと眉に力を入れて智瑜を見つめてきた。

　心地よい冷風を感じながら、邪衣士は前菜の並ぶ一角に立っていた。
　ビュッフェは気軽な立食形式とはいえ、フルコースと同じ順番で食べるのがマナーとされている。
　ゆえに前菜からと思ってだったが……
（この暑さだからな。冷製スープとは嬉しいな）
　思わずその隣のスープに目が行ってしまった。
　そう思いながらも染み付いた『マナー』自体を士は好ましくは思っていない。
　特にこの格好。
　準礼装のブラックスーツを着込んできたのだが、着ているだけでムカムカしてくる胸を抑えられなかった。
（しかし何年ぶりだろうかこういう格好をするのは？）
　みょうがの香りサラダと柚子香るアジのたたきとで悩んでいると、同じようにこの一角を目指す姿を見つけた。
　少年かと思ったが……よくよく見ると知った顔であった。
「旅鴉、か」
　男物のスーツを着ているからすぐには気がつかなかったが、彼女ならではの独特の空気は隠せない。いやそもそも隠す気はないのだろうが。
「ん？」
　旅鴉月詠は首をひねる。
「ん？」
　士も同じようにしてから、ああと得心がいった。
「どうしたんだ俺だよ俺。熊がないからわからなかったか？」
　そう言うと、月詠はすこしだけ思案するような顔をしてから（ほとんど変化はないが）、ゆっくりと口を開いた。
「……邪衣か。熊が本体だと思っていたもので気がつくのに時間がかかった」
　そうか、さきほど感じた既視感はそういうことか。
　そんな呟きまで聞こえてくる。
「髪も、いつもと違うな」
「……ボサボサの状態でこんなとこには来れないからな」
　彼女の指摘する通り、士は真っ直ぐになるように髪をセットして来た。
「そうか」
　彼女の素っ気ない言葉が有難いような、苦いような。
　複雑な思いをかき消すように、士は悩んでいたふたつともを皿に装った。