厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。｜リアクション

厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。

●お食事の前に～待ち合わせ

　ホテルのロビーには、にこやかな笑顔を浮かべてけれどお客の邪魔にはならないようにと景色に溶け込んだコンシェルジュたちが立っている。
　そのコンシェルジュの横を通り抜けて、紅林柳霞は荒井景貴の姿を探した。
　慣れないハイヒールでもたもたとしていると、
「お待たせしました」
　そっと景貴が図ったかのように現れて、柳霞の体をそっと支えてくれた。
　すると景貴の顔が耳元に来て、月のイヤリングは、彼の声に合わせて揺れた。
「こんにちは柳霞さん。髪をアップにしているのを初めて見ました」
「そう、だったかな？」
　体勢を立て直しながら、息のかかった耳に手をやる。
「今日のワンピースドレスに合っていて、とてもよく似合っていますね」
　さり気なく差し出してくれた手は意外と大きくて、柳霞は戸惑う。
「あ、ありがとう」
　触れていっそう、柳霞の中に緊張が走る。
　この手があの美味しいお菓子を作っているんだよね。
「……景貴さんも、素敵」
「照れくさいですね、ありがとうございます」
　自覚はないけれど、店主と客の関係から一歩踏み出した瞬間だった。

「今日も綺麗ですね、神無さん」
　一歩踏み出すつもりもないのに、天然無自覚で人を褒める男は厄介だ。
　と、望月神無は思う。
　表情の変化に乏しいので、余計にだ。
　彼女たちもロビーで待ち合わせをしていた。
「ありがとうございます」
　くすぐったい言葉を聞き流すように御礼の言葉を口にすると、
「どういたしまして」
　となおも日月透は、なんでもないといように、すこしけだるい、溶けたチョコレートのような返事をした。
　お世辞でも、褒めてもらえれば嬉しい。
　頬に笑みを乗せて神無はエレベーターに乗り込んだ。

　御剣刀は橘千歳とともに、ホテルにやってきた。
　彼も当選したのだが、その葉書を手にした瞬間、彼の脳裏をよぎったのは（千歳の顔、だったんだよな）。
　彼が着ている服は千歳が選んだタキシードと蝶ネクタイ。
（馬子にも衣装、だな）
　自分自身では苦笑することしかできない。
　対し千歳は（よく似合ってるな……）と思わず刀が見惚れるほどだった。
　うっすらと、夜明け前のような淡い青のドレス。
「うん、やっぱ綺麗だ」
　思わず呟くと「ほ、褒めても何もでないんだからね」と言い、きりりと涼し気な千歳の目尻が柔らかくなった。

　ビストロ・シャ・レーヌの前にはいかにも紳士的な男が立っており、はがきの確認を行っていた。
「本日はご協力くださいまして、ありがとうございます。ようこそお越しくださいました」
　はがきの確認を終えると柔和な笑みを浮かべて、給仕を呼んだ。
「それではご案内致します」
　清潔感のあるメイド服の給仕に案内をされ、簡単な説明が行われる。
　随所にテーブルがあるのでそこは自由に使ってもいいということ、アレルギー表示は料理の名前の横にしてあるということ等の簡単な説明であった。
　それが終わると、待ちに待ったお食事の始まりだ。

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