厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。｜リアクション

厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。

●お食事の前に～確認しましょう

　試食会が始まる三十分ほど前に旅鴉月詠はステラ・デッラ・コリーナのロビーに到着していた。
　柔らかい銀の髪はまとめ上げて、ハットの中にしまい込み、すらりと尾が伸びたモーニングコートを羽織っていた。
　一見すれば男性――少年と見まごう姿。
　けれど細いうなじが、彼女が女性であることを強く物語っていた。
　玄関先に視線を向けると、うなじは隠れてしまった。
「まだ、か」
　月詠は再び視線を足元にやった。
　彼女が待っているのは野々ののこを含めた知り合いたち。
　約束をしたわけではないが今日の試食会、野々ののこも招待されていると聞いて、服装は大丈夫だろうかと心配になったのだ。
　何度もドアが開き、何度もののことは違って（もしかするとののこもきちんとしているかもしれないが……）場所をわきまえた格好の老若男女が通り過ぎて行く。
「ん？」
　見覚えがあるような（月詠からすれば）背の高い男が過ぎていく。
　けれどさらりと柔らかそうな髪はすこし長いがこれといって奇抜ではなく、彼が誰だか思い出せそうになかった。
　それから月詠と同じように、男装をしているものもいた。
　オレンジのシャツにパープルのパーティースーツ。
　彼女はその長い髪をリボンでまとめていて、男装、という意図はないのかもしれなかったが、どちらにせよよく似合っているという意味では同じであった。
「……まぁ口を挟むことではないか」
　吐息とともに言葉を吐き出すと、「わー！　わー！」待ち人が到着する。
「野々さん、もう少し落ち着いて、ね？」
「エレナ先輩、だ、だって、ステラ・デッラ・コリーナなんて初めてで……」
「だから落ち着いて。せっかくだからね？」
「は、はい」
　隣には剣崎エレナが居た。
　なんだ、彼女が居るのならば心配することもなかったか。
　胸を撫で下ろしながら、乱れた髪に気がついた。アホ毛がしなだれ、髪の裾が跳ねている。
「やはり、必要か……」
　やれやれとため息をついて、「ののこ」と声をかけた。
　月詠の手にはブラシ。
「え、え、月詠ちゃん？」
　すかさずエレナもろともトイレに連れ込むのだった。

　尾鎌蛇那伊がホテル一階の男子トイレから出た時、ちょうど鷲尾礼美と富士山権蔵が玄関に入ったところだった。
　蛇那伊は思わず声をかけた。
「おや、先生方とここで会えるとは」
　さすがのふたり。高級ホテルに見合った格好というものをよく知っている。
　そのふたりに見合った仕草で蛇那伊は挨拶をした。
　落ち着いた声色で、丁寧に頭を下げる。普段の口調もこの場には合わないため封印して。
「あら、えっと……」
　一瞬礼美が困惑の表情を浮かべる。
「アラ。もしかして、尾鎌ちゃんかしら？」
「え？」
　どうやら気がついてもらえなかったらしい。
　蛇那伊は苦笑交じりで「宜しければ、ご一緒させて頂けませんか？」流麗な仕草で手を差し出した。
　フジコがすっと礼美に視線を送った。礼美は無意識に妖艶な笑みを浮かべて頷いて、蛇那伊の手を取った。
「お願いね」

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