厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。｜リアクション

厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。

●お食事にもハプニング

　空のジョッキを給仕の女性に渡して、伊予祐は次のビールの注文をした。
　二杯目は出そうか？　という霧生渚砂の提案は呆気なく、流され、祐は黄金の液体で胃を洗う。
「たはー、にしてもこれだけ並んでると壮観だな」
　口についた泡を景気良く拭い、祐がイカ素麺をすする。
「そうだな、見ているだけで楽しくなってくるな！……おお、このトマトのスープは酸っぱくないぞ！」
　トマト本来の甘みに感動して、渚砂はもうひと口。
「んー……！」
　きっとこのトマト高いんだろうな。
　それからひと通りメインも食べて、待ちに待ったさくらんぼのタルト。
　これも文句なしの味わいで、今度家で作れないかな？　何が入ってるんだろう？　と懸命にレシピを頭の中で組んでいた。
　そうして贅沢な食事に舌鼓を打っていると「っ！？」隣から悲鳴が。
　どうしたんだと言うまでもなかった。
「こ、これは……こんにゃくだァァァ!!」
　祐は額にびっしりと玉の汗を浮かべて、悶絶している。
「TASはこんにゃく好きなのか？」
　まさかと思って尋ねてみるが、
『んなわけあるか！』
　祐の目が、そう言っていた。
（こんにゃくにどんな思い出が！）
　と気になるものの、人の傷を抉るのは良くない。
　お兄さんはお兄さんであるから、人が嫌がることはしないのであった。
　それが功を奏したのか、祐は汗を拭うやいなや、あっという間にジョッキを空にした。
（うんうん、）
　その元気なようすに安心してから、渚砂は動きを止めた。
「というかお酒、水のようにがぶがぶ飲み過ぎた！」
　体にも良くない。慌てて止めにかかろうとすると、「うんうん、酒が進みますな！」と普段よりも殊更に陽気に、祐は渚砂の肩にのしかかってきた。
「つい馴れ馴れしくなるけど許してな」
　と言いながら、既に渚砂の上にのしかかっている。
「お、重いぞ……TAS……！」
　苦言を絞りだすが、酔っぱらいには届かない。
「く、ぐるじ、」
　渚砂の首に祐の腕が絡まり、気道を塞ぐ。
　腕をほどいて押し返すと、構えていなかったのだろう。祐はふらふらと後ろに何歩か歩いて、そのまま座り込んでしまった。
「大丈夫ですか……？」
　近くに居た子供、甘喜好が駆け寄ってくる。その向こうに渚砂の見知った顔・八神修が見えた。
「ん～？　大丈夫だ！　ありがとうな！」
　祐は喜好の驚きをよそに、楽しそうに、彼の頭を撫でて、すぐに立ち上がった。
「ごめんなー？　もう平気？」
「もういいから、」
「そっか、」
　ちょうどその時、トイレから戻ってきた、マリベル・ロイスと弘明寺能美子が通りかかる。
　アクシデントは、アクシデントを呼ぶのだろう。
「よかったっ……んぐっ」
　喜好のろっこんが発動してしまった。
　彼の力は『頭に触った生き物は、近くの人に甘いものをあーんとしてあげたくなる』というもの。
　結果。祐は、近くに居たマリベルにあーんとしたのだった！

　ぶつかってしまった能美子は、ちょっと無愛想だけど、飛び抜けて可愛い子だった。
　眼福やなぁなんて惚けながら、トイレから戻ってきて、この後も話せたらいいなとも思うマリベル。
　たしかにぼんやりとしていたといえばそうなのだが、まさか見知らぬ男に（しかもイケメンに）あーんされる羽目にはなるとは……。
（いや、そりゃ、こんなとこにひとりで来てこれが漫画ならイケメンとぶつかってキャーって素敵な出会いがあるんやけどなあ……とか思ったけど！）
　あーんをされるなんて想定していなかった。
　食べたのは、シェフのオススメ・さくらんぼと洋酒のタルト。
（……美味しいわぁ）
　というのはさておき、祐が酔いがさめたというようにぺこぺこと頭を下げた。
「あれ？　えっと、ご、ごめんな、いきなり」
「……ど、どうも？」
「俺は伊予祐、新米の執事で……」
「ウチはマリベル・ロイスです、えっと寝子高の――」
　ひと通り自己紹介（？）を終えたところで、渚砂の表情がぱっと明るくなった。
「おお、修君か！」
「……こんにちは、渚砂」
　修に近づいていく、もうひとりのイケメンさん。
　そうこうしている間に、騒ぎに気がついたのか宮祀智瑜たちもこの輪に近づいてきた。
「智瑜おねーちゃん……」
「頭、触られちゃったんだね。でも喜好君のせいじゃないからね」
　なにがなんだかマリベルにはちっともわからなかったが、
「弘明寺ちゃんのこと尊敬やわ」
「……どうも」
　この状態でも顔色一つ変えない能美子にそんな眼差しを送るのだった。

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