厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。｜リアクション

厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。

●お食事で見えてくるもの

　各々食事を終えて、最後に今回の食事と今後のレストランの利用についてのアンケートを書いていた。
　旅鴉月詠は前菜、スープ、魚、肉、デザートの順で――正式なコースと同じような順序で、かつ、シェフのオススメをすこしずつ取って、食事を進めていった。
　コーヒーで唇を湿らせながら、至極丁寧に気になった点を書き込んでいく。
　そうしながら、おもむろに口を開いた。
「なぜ、コースの順が前菜からか知っているか？
　例えば前菜は食欲を駆り立てる役目、サラダはアルカリ性だから酸性である肉とバランスを取る役目がある。
　近年の研究では、野菜を先に食べると血糖値が急激に上がらないため、健康に良いということが立証されたようだしな」
　一度間を開けて、コーヒーを飲んだ。
「ビュッフェである以上強制する必要はないし、こだわり過ぎるとせっかくの料理が台無しになる。
　実際、美味しいものを美味しく食べてほしいというのがシェフの本音。そうだろうボーイ？」
「は、はい。ご明察の通りです」
　びくんと近くに居たボーイの肩が上がった。
　同時に、客は客の自由だが、スタッフはきちんと知識を持っておかねばならないという助言でもあるのだ。
「……精進致します」
　年若いボーイは月詠に深々と頭を下げた。
「シェフに伝えてくれ美味であったと」
「ありがとうございました」
　月詠の背中を見送ってから、ボーイはアンケート用紙を回収する。
「あ……」
　そして、そこに添えられた、料理の見事なスケッチを見て、目を丸くするのであった。

「お食事は楽しめましたか？」
「ええ、智瑜ちゃんが喜好の相手をしてくれたから」
「違うでしょ、ママ！　ママが迷子にならないように智瑜おねーちゃんが助けてくれたんでしょ」
「祥子さん、喜好君……私はそんな……」
　甘喜好たちと一緒にアンケートを記入することになった、八神修たち。
　修がさりげなく尋ねると、思った以上の反応が返ってきて微笑ましいなと思った。
　宮祀智瑜もはにかみながら、頷いた。
「へへ、楽しめたみたいだね！」
「ああ」
　椿美咲紀もその楽しげな空気にあてられたらしい。
　そうして彼女たちのようすを眺めていると、甘祥子が、おずおずと修に話を振ってくる。
「修君は……その、楽しそうねぇ」
「え？」
「カッコイイって罪ね」
「ですですー！」
　祥子のぽやんとした発言に驚いている間に、美咲紀が乗っかる。
　修は苦笑しながら、アンケートの続きを書いた。
（彼女たちでも気軽に来れるように。それがこのビュッフェのコンセプト。
　ならば、彼女たちの立場を考慮して、書かないとな）
　より大勢がこのレストランに訪れるように。
　思わず笑みがこぼれたところで「あの、写真を撮ってもらえませんか？」と智瑜が申し出た。
「ああ、構わないよ」

「思い切って誘って本当に良かった！」
　紅林柳霞の笑顔を受け取って、荒井景貴の目尻がすっと下がる。
「楽しんでもらえたみたいで、良かったです」
「ありがとね、嬉しい」
　品のいい、けれどひまわりのような無邪気さも兼ね備えた柳霞の笑顔で、景貴の胸にひだまりができる。
　本当に良かった。
「でも、ひとつだけ残念だったな」
　日向に影が射した。
「え？」
　その影を追い出そうと景貴は問い返す。
「確かにここのも美味しいけど、私は景貴さんのスイーツの方が好きだな、なんて」
「あ、ありがとうございます」
　思わぬ答だった。影などもともと射していなかった。
　首の後がくすぐったくなるような、そんな感覚に促されるまま、景貴はどうにか柳霞に御礼を告げた。

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