厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。｜リアクション

厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。

●お食事の装いは

　涼し気な装いのオードブルをいくつか楽しんで、邪衣士も鉄板焼きの前に並んでいた。
「……せっかくだから何かグリルしてもらおうかね」
　そう呟くとシェフが一礼してから「アレルギー等、ございませんか？」と尋ねてくる。
「これといってない」
　簡潔に告げて、シェフに任せていると、「あれれ？」と士に向けられた疑問の声が聞こえてきた。
　それも聞こ覚えのある声だ。
　振り返ると予想通りの彼女が居た。
「うーんと、どこかで見たことがあるような……？」
　野々ののこが首を傾げていると、「いきなり失礼よ、野々さん」と剣崎エレナがののこの肩を押さえる。
　今日何度目のやりとりだろうか。
　そろそろ士自身は飽きてきた。
「……もしかして、邪衣か？」
「もしかせずとも、そうだ」
　さすがともいうべきか、八神修は気がついたらしい。
「えええええ！」
　ののこは目を丸くしているし、椿美咲紀も控えめにだが驚いている。
「……そんなに似合ってないか？」
　その驚きの意味をはかりかねて士が聞き返すと、ののこがそれこそ首が取れるんじゃないかというほど首を振った。
「ううん、すごく、士君かっこいいッ！　ね？」
「ああ、よく似あってる」
　ののこの素直な感想と、修の冷静な言葉に安堵して、そろそろできるだろう鉄板焼きを待つことにした。
「あ、私、そろそろケーキ食べたいなー！」とののこが言い、「さくらんぼのタルトが美味しそうだったのですです！」と美咲紀が頷く。
「ケーキは……」とエレナが困ったように言葉を濁すと、「プティフールですから、すこしだけ、どうです？」と美咲紀が促した。
　女性らしい会話だなと、士は苦笑する。
「俺はまだメインを待ってるから……」
「じゃあ、失礼するよ」
　そうして修たちはデザートに向かった。離れていく最後の一瞬、士と修は目が合う。
（エスコート、大変そうだな）
　士が肩をすくめてみせると、（そうでもないよ）と修は微笑んだ。わずかに苦味の混じった笑みだ。
（俺には出来そうもない）
　そんな声援は修に届いただろうか。もう、女性たちはデザートの前に居た。
「お待たせいたしました」　
　機を窺っていたかのように、シェフが焼きあがったメインディッシュを皿によそい終わった。
　実際のところ、待っていてくれたのだろうと思う。
「ありがとう」
　ひとことに感謝の気持を詰め込んで、士は皿を受け取った。
　皿がほんのり温かく、そんなちょっとした配慮を嬉しく思う。
「いただきます」
　メインディッシュに限らず、手前にあるものから食べるというのは食事の基本。
　一番手前にあったのは、肉。まずは肉をフォークで刺す。じゅわ、っと音の聞こえそうなほど、肉汁が滲んできた。
「ん」
　当然ながら美味。
　士の頬が意図せずに緩む。
　次は、サヤごと焼いたそら豆だ。
　そうしてフォークを伸ばしたとき、「ひっ！」耳にふぅと息が吹きかけられた。
「な、」
　一体誰が。
　振り返ると、そこには富士山権蔵、鷲尾礼美、それからいかにもな紳士が。
「あら、今日は女装、してないのネ」
　息を吹きかけたままの距離で、フジコがささやく。
　嫌なことを思い出し、ぞっとしない。
　以前、士はフジコの演劇の授業に乱入してしまったことがあるのだ。
　そしてロミオとジュリエットのジュリエットをするはめになった。
「フジコ先生……よく気づきましたね」
「アラ。アタシからいい男が逃げようなんて、無理な話よ」
　褒めてくれているのだろうか。
　それよりも、このまま一緒にいるつもりじゃないよな？
　しかし多分に漏れず、この悪い予感も当たるのだった。
　尾鎌蛇那伊が止めてくれるまで、フジコのセクハラまがいの会話は止まらない。