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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
厳正な抽選の結果、貴方様がご当選されました。
●苦味もお食事
シェフがローストビーフを切り分け、その上に赤ワインを煮込んだソースをとろりとかけた。
「美味しそう……」
塔尾 松生は何枚かお皿に取って、日向 透に差し出した。
「日向さんもいかがですか？」
「これはこれは美味しそうですね。では早速いただきます」
透はにこやかな笑顔で皿を受け取り、その表情のまま肉を食べる。
その時のお箸の持ち方が綺麗だな、ということに気がついて、松生の中の憧れがいっそう強くなるのであった。
（美味しそうに食べるなー……お肉好きなのかな？）
ひとつ疑問が浮かべば、堰を切ったように湧き出てくる。
（好きな映画とか、ＣＤとか、色々聞いても大丈夫かな？
でも、あんまりぐいぐい聞いて、嫌われたくないな……）
そう思っているうちに、「では、失礼します」と透の背がどんどん遠ざかっていってしまった。
（え……）
その背を追いかけたいけれど……でも、彼が去っていったのを追いかけるほどの勇気が松生にはなかった。
料理長に挨拶を終えた弘明寺 能美子は、やはりいつもの癖で、前菜から順番に口に運ぶのであった。
前菜にみょうがの香りサラダを食べて、口の中に独特の酸味に似た辛味が残っているので、フルーツトマトの冷製スープの甘みで口の中をすすぐ。
それから一度お水で喉を潤してから、車海老の姿お造りを口に運んだ。
お醤油の甘じょっぱさと、お造り自体の甘みが口いっぱいに広がって、鼻から抜けていく。
作り置きのため、なんらかの工夫を凝らしているのだろう。
そこまで食べたところで食事はおしまい。
どれほど美味しくとも、食べ過ぎは体に毒だから。
これも、モデル時代の『慣れ』かもしれない。
ふとそんなことを思って、能美子は顔をしかめる。
（ジュースが美味しそうね）
嫌なことは忘れよう。そう言わんばかりに能美子はまっすぐとジュースが並ぶ一角を目指した。
（……っ、）
モデルの話は、能美子にとって触れてほしくない、触れたくないことだった。
気持ちが乱れに合わせて、表面上、能美子の歩みが乱れることはない。
それもある意味では『慣れ』であって、彼女を蝕むものに変わりはないのだが、能美子はまっすぐまっすぐ長い足を目一杯伸ばして歩いた。
歩き方にも立ち振舞にも何の問題もなかった。
けれど、その向かいから歩いてくる人影に気がつけなかったのは、やはり動揺していたからなのだろう。
「あ、」
「っ、」
能美子の腕が、マリベル・ロイスの肩にぶつかってしまった。
マリベルが持っていたジュースがコップの中で波打つ。
そして、空中で大きな玉を作り、綺麗な絨毯に吸い込まれていった。
「わ、すんません。服、大丈夫ですか？」
マリベルはコップを近くのテーブルに置くと慌てて能美子に頭を下げる。
「……私は平気」
相手に非があると思ったわけではなかったが、つい能美子は相手を睨みつけてしまった。
正確に言えば、彼女自身は睨んだつもりはないのだけれど。
それに一瞬怯んだマリベルだったが、能美子の顔を注視して口をポッカリと開いた。
「もしかして弘明寺ちゃん？」
「だから？」
マリベルと能美子は同じ芸術科の生徒。転入生のマリベルだったが、良くも悪くも浮き気味の能美子のことは、知っているのかもしれなかった。
親しげに話しかけてくる彼女に対し、能美子がムッと言い返す。
けれどそんなこと気にした風もなく、マリベルは「嬉しいわ～。ウチひとりで来て……ちょっと不安やったん」と眉をハの字にして笑ってみせた。
「知った顔に会えて嬉しいわ」
悪気のない、柔らかいマシュマロのようなマリベルの笑顔に、能美子は毒気が抜かれてしまう。
「そう、それはよかったわね」
ツンケン、というよりは呆れ混じりの返事。
マリベルはへへと照れくさそうに笑っていた。
「あら、アナタたち、ぶつかったみたいだけど大丈夫？」
騒ぎを気にして駆けつけたのは富士山 権蔵と鷲尾 礼美。それから――尾鎌 蛇那伊だった。
「服に跳ねてはいないみたいだけど、一度確認したほうがいいでしょうね。ここはスタッフに任せておけばいいから……」
と尾鎌が言うと、礼美が心配そうに首を傾げた。
「そうね。ひとりで大丈夫かしら？」
「平気で、」
「ウチもついていくんで大丈夫です！」
能美子はこうしてマリベルとトイレに行く羽目になるのだった。
「ンフ、尾鎌ちゃんったら、いいじゃない」
「ありがとうございます」
そんな言葉が後ろから聞こえてきて、初めて彼が『尾鎌 蛇那伊』であることに能美子は気がつき、なんだか妙な疲れを感じるのだった。
シェフがローストビーフを切り分け、その上に赤ワインを煮込んだソースをとろりとかけた。
「美味しそう……」
塔尾 松生は何枚かお皿に取って、日向 透に差し出した。
「日向さんもいかがですか？」
「これはこれは美味しそうですね。では早速いただきます」
透はにこやかな笑顔で皿を受け取り、その表情のまま肉を食べる。
その時のお箸の持ち方が綺麗だな、ということに気がついて、松生の中の憧れがいっそう強くなるのであった。
（美味しそうに食べるなー……お肉好きなのかな？）
ひとつ疑問が浮かべば、堰を切ったように湧き出てくる。
（好きな映画とか、ＣＤとか、色々聞いても大丈夫かな？
でも、あんまりぐいぐい聞いて、嫌われたくないな……）
そう思っているうちに、「では、失礼します」と透の背がどんどん遠ざかっていってしまった。
（え……）
その背を追いかけたいけれど……でも、彼が去っていったのを追いかけるほどの勇気が松生にはなかった。
料理長に挨拶を終えた弘明寺 能美子は、やはりいつもの癖で、前菜から順番に口に運ぶのであった。
前菜にみょうがの香りサラダを食べて、口の中に独特の酸味に似た辛味が残っているので、フルーツトマトの冷製スープの甘みで口の中をすすぐ。
それから一度お水で喉を潤してから、車海老の姿お造りを口に運んだ。
お醤油の甘じょっぱさと、お造り自体の甘みが口いっぱいに広がって、鼻から抜けていく。
作り置きのため、なんらかの工夫を凝らしているのだろう。
そこまで食べたところで食事はおしまい。
どれほど美味しくとも、食べ過ぎは体に毒だから。
これも、モデル時代の『慣れ』かもしれない。
ふとそんなことを思って、能美子は顔をしかめる。
（ジュースが美味しそうね）
嫌なことは忘れよう。そう言わんばかりに能美子はまっすぐとジュースが並ぶ一角を目指した。
（……っ、）
モデルの話は、能美子にとって触れてほしくない、触れたくないことだった。
気持ちが乱れに合わせて、表面上、能美子の歩みが乱れることはない。
それもある意味では『慣れ』であって、彼女を蝕むものに変わりはないのだが、能美子はまっすぐまっすぐ長い足を目一杯伸ばして歩いた。
歩き方にも立ち振舞にも何の問題もなかった。
けれど、その向かいから歩いてくる人影に気がつけなかったのは、やはり動揺していたからなのだろう。
「あ、」
「っ、」
能美子の腕が、マリベル・ロイスの肩にぶつかってしまった。
マリベルが持っていたジュースがコップの中で波打つ。
そして、空中で大きな玉を作り、綺麗な絨毯に吸い込まれていった。
「わ、すんません。服、大丈夫ですか？」
マリベルはコップを近くのテーブルに置くと慌てて能美子に頭を下げる。
「……私は平気」
相手に非があると思ったわけではなかったが、つい能美子は相手を睨みつけてしまった。
正確に言えば、彼女自身は睨んだつもりはないのだけれど。
それに一瞬怯んだマリベルだったが、能美子の顔を注視して口をポッカリと開いた。
「もしかして弘明寺ちゃん？」
「だから？」
マリベルと能美子は同じ芸術科の生徒。転入生のマリベルだったが、良くも悪くも浮き気味の能美子のことは、知っているのかもしれなかった。
親しげに話しかけてくる彼女に対し、能美子がムッと言い返す。
けれどそんなこと気にした風もなく、マリベルは「嬉しいわ～。ウチひとりで来て……ちょっと不安やったん」と眉をハの字にして笑ってみせた。
「知った顔に会えて嬉しいわ」
悪気のない、柔らかいマシュマロのようなマリベルの笑顔に、能美子は毒気が抜かれてしまう。
「そう、それはよかったわね」
ツンケン、というよりは呆れ混じりの返事。
マリベルはへへと照れくさそうに笑っていた。
「あら、アナタたち、ぶつかったみたいだけど大丈夫？」
騒ぎを気にして駆けつけたのは富士山 権蔵と鷲尾 礼美。それから――尾鎌 蛇那伊だった。
「服に跳ねてはいないみたいだけど、一度確認したほうがいいでしょうね。ここはスタッフに任せておけばいいから……」
と尾鎌が言うと、礼美が心配そうに首を傾げた。
「そうね。ひとりで大丈夫かしら？」
「平気で、」
「ウチもついていくんで大丈夫です！」
能美子はこうしてマリベルとトイレに行く羽目になるのだった。
「ンフ、尾鎌ちゃんったら、いいじゃない」
「ありがとうございます」
そんな言葉が後ろから聞こえてきて、初めて彼が『尾鎌 蛇那伊』であることに能美子は気がつき、なんだか妙な疲れを感じるのだった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2014年03月19日
- 参加申し込みの期限
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- 2014年03月26日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2014年03月26日 11時00分
