真夏の肝……腕試し！｜リアクション

真夏の肝……腕試し！

「あぁ……」
　銀丸は地面に仰向けに寝転がり、寝子島の夜空を眺めていた。山奥と言うこともあってか、空には一面の星々が広がっているのが見える。
　銀丸はホルスとの戦いでカウントを使い果たし、その場に倒れ込んだのだった。しかし体には適度な疲労感とじんじんとした痺れが広がり、けして気分は悪くない。
「筋はなかなかよかったが、実力としてはやはり高校生レベルといったところか。しかし……、なかなかいい運動になった」
　ホルスはぶはー、と息を吐くといかにも疲れたといった感じで着けていた防具を外した。見た目からは想像できない速さで地面に落ち、少し地面に刺さる防具。そうしてホルスは銀丸と同じように地面に寝転がった。
「……防具って、外したら失格になるんじゃないか」
「俺ももう歳だ、あんなクソ重いもん体にくっつけたまんま二人も三人も相手できねえよ。……あ、そうだ」
　ホルスは自分の首から名札を取り、銀丸に渡した。
「失格になると名札も没収されるだろうからな。これはお前にやるよ」
「いらない……、それが欲しくて闘ってたわけじゃないしな」
「いいから持ってけ、そのかわりお前の名札は俺がもらう」
　ホルスはやや強引に銀丸の名札を奪うと、力を使い果たしたようにぐたっと地面に全体重を預けた。
「南雲、銀丸……か。銀丸、お前、ボクシングに興味はないか？」
　いきなり下の名前で呼ばれた銀丸は顔をホルスの方に向けたが、しばらく考えたあと顔を背けた。
「……俺は、武道がやりたいから。いろいろ手を出しすぎると、よくないと思う」
「……そうか、それならいい、忘れてくれ」
　ホルスは少し口角を上げた。しばらくの無言の後、反則を告げる放送が流れてホルスは起き上がり、その場を立ち去ろうとした。
「けど」
「ん？」
　背中に投げかけられた言葉にホルスが振り向くと、銀丸も起きあがって地面の上に正座をしていた。
「けど、あのパンチは気になるから……気が向いたら教えてくれ」

２０：４５　南雲銀丸（カウント０）、ホルス・フォモナンデス（失格）、敗退。

「だいぶ、ここも賑わってきたな」
　お菓子をつまむライレエがつぶやいた。
　現在控室には十人の選手が集まっていた。
　残り時間が約３０分であることを考えると少なくも思えるが、それは選手たちのレベルの高さを表しているのだろう。
『ごめんね、私だけこうさんしちゃって』
「いや、あれだけの敵の数だ。無理しないのが正解だったよ」
「おーい、ななみん大丈夫ー？」
「逆になんでひばっちゃんはピンピンしてんだ……？」
　中には銀丸のように静かに試合を観戦している選手もいたが、大抵は知り合い同士で参加したりしているため和気あいあいとしていた。
　その様子を見たライレエは、近くでモニターを観ていたリナに話しかけた。
「なあリナ、お前お菓子食べないの？」
「なんであんたはいつも俺に話しかけんだよ」
「いいだろ、お前に蹴飛ばされたせいでまだ身動き取れねえんだからさ」
「嘘つけ、あんたここまで自力で歩いてきたろ」
「それはそうとここにはお菓子しかねぇのか？　そこのお前、雨寺だっけ？　ちょっと酒買ってきてくれよ」
「えー、たぶん山の中だから売ってないんじゃないですかぁ？」
「あんたも突っ込みどころそこじゃねえだろ」
　残り時間３０分。試合場と待合室の温度差は広がるばかりだった。

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