暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！｜リアクション

暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！

◇生物部員、かく語りき

　騒ぎの詳細を聞くなり、ちくわを咥えた男は事も無げに語った。
「いいねいいね。それでこそ虫の季節だ」
　男の名は新井すばる。寝子高生物部の部員である。
　部の性質ゆえか、彼の中では人的被害よりも未知の生き物への興味が勝るらしい。
「その珍しいセミだけど、この近くにもいるみたいよ。調査もかねて捕まえておきましょう」
　知的好奇心では情報提供者の神野美野梨も負けていない。
　早速準備に乗り出し、網、カゴ、鳴き声対策の耳栓、帽子に日焼け止め、そしてスケッチブックなどを手際よく揃えていく。
「神野さんは行動早くて助かるよ。光るセミのついでに、この辺の虫スクリーニングもしとこうか」
　美野梨に遅れまいと、すばるも持ち物を準備していく。
「本格的な虫シーズンになる前に状況が分かれば、うちの部長も喜ぶさ」
　そういってすばるは何やら長細いものを取り出した。
「じゃーん、みてみて。これ、ボク自慢の虫取り網」
　先端を引っぱって等間隔で伸ばし、仕上げに着脱式の網を取りつける。
「それって本来、魚釣り用の竿よね？」
　組み立てをそばで見ていた美野梨が興味深そうに尋ねる。
　彼女の言うとおり、この網の柄の部分は小継の釣り竿を流用したものだ。
　２メートル近くは伸びる上に、長さの調節もきく。
「これなら高い木の上に止まってても大丈夫ってことー」
　すばるはさらりと言ってのけたが、釣り竿を虫取り網に作りかえる人はあまり見かけない。
　この道具一つにも、彼の虫への情熱が見えてくるようだ。

　大方準備は整った。窓の外、海上には立ちのぼる入道雲が見える。
「セミ採りにふさわしい天気だね。それじゃ、行こうか」
「……ええ。いいデータが取れるといいわね」
　自然界への好奇心は自然が満たしてくれる。
　こんな日こそ部室を飛び出し、夏空の下へ。

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