暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！｜リアクション

暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！

◇聞き耳たてたが運の尽き？

　一方、桜台のとある公園では宇佐美実がベンチに腰を下ろしていた。
　彼は普段、日雇いの仕事などで収入を得ているが、この日は時間を持て余していた。
「暇だなぁ……」
　こういった時、実には一風変わった時間つぶしの手段があった。
　たった今彼が取り出したうさみみヘアバンドがその鍵をにぎっている。
「よいしょっ、と」
　耳を塞ぐようにうさみみをかぶると、それまで聞こえなかった物音が彼の耳に届く。
　うさみみを付けている時、実の聴覚はろっこんで強化され、より遠くの音を拾うことができるのだ。

　バスの発進音に部活のかけ声、つづいてバットが球を打つ小気味のいい音。
　こうして生活音を聞くと、案外気がまぎれる。
　しかし、この日彼が拾った音の中には異質な音が混ざり込んでいた。
『ゴッホン！　アァ～、メンドクサ～～イ♪　メンドクサ～～イ♪』
　奇怪な声に頭脳が揺さぶられる。
　何が起きたかも分からないまま、実の足はジャングルジム目指してよろよろと歩いていた。

　と、つまずいた拍子にうさみみがずり落ち、変な鳴き声が耳から遠ざかる。
　反響がおさまった後、実は不可解な顔で遠くを眺めた。
「何だ今の……セミの声が聞こえた途端、頭がぼーっとして……」
　異変が起きたタイミングから、あの鳴き声が原因とみて間違いない。
　詳しい事はわからないが、少なくともセミのせいで自分がピンチに陥っているのは確かだ。
「うさぎのにーたん、どーちたのー？」
　そう、お遊戯中の子どもに興味津々な目で見られているこの状況は危険だ。
　だってほら、後ろでお母様が見てらっしゃる。おそろしくこわい目つきで。

　あらぬ不審者疑惑から逃げるように、公園を出る。
「このままじゃ、変なおじさんとして捕まっちまう……」
　まさかセミ相手に、こんなギリギリの戦いを強いられる人物がいようとは。
　こうして、実の市民生活をかけた戦いがはじまった。

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