暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！｜リアクション

暑いしだるいし、モウヤメミ～ン！

◇連鎖反応

　――あそこにいるわね。
　木にぼうっと宿っている光を見て、神野美野梨がそうつぶやいた。
　生物部の二人、そして宇佐美実はついにセミの居場所を特定した。
　ここで逃がしては努力が水の泡。慎重に近寄るべきだろう――しかしそんなことを、新井すばるが言い出すはずもなかった。
『よーし。みててね、ボクの網さばき』
　大胆にも自慢の網を振りかぶり、モウヤメミンの止まる幹へと一息に投じる！　……のだが。
『あれー』
　持ち手の部分が大きくしなって狙いが外れてしまった。元が釣り竿だけにコントロールがむずかしい。
　ジジッと警戒の声で鳴き、モウヤメミンは近くの木へと飛んでいく。
『コントロール、むずかしそうだな……』
　見ていた実がううんと唸る。
『今度は低い位置に止まったわ。チャンスよ』
　しかしモウヤメミンも警戒しているらしく、鳴くのをやめて気配を探っている。
　隙を見つけられず攻めあぐねたまま、時間だけが経っていく。

　このままじゃ埒があかない。思い切って実とすばるが距離をつめていく。
『鳴き声さえ、なければ……』
　しかしそんな祈りも届かず、モウヤメミンが羽を震わせ再び鳴きはじめた。
「ハァ～、メンドクサ～～イ♪　メンドクサ～～イ♪　モウヤ～メ～ヤ～メ～ヤ～メ～、ミィ～～ン……」
　メンドクサイと連呼する声に、後ろで見ていた美野梨の頭がかくんと揺れた。
　耳栓ごしにはわずかな音量だったが、蓄積された声はだるーい気持ちを彼女の中に蓄積させていた。

　たとえば降りつもった化学反応が一気に進み、ひび一つなかった試験管が破裂するように……世の中には３つ数える間に複数の事が連鎖して起きる、ということが稀にある。
　面倒くささが頂点に達した美野梨の体がぐにゃりと揺れて、その連鎖の引き金を引いた。
「……も～嫌、めんどくさい」
　やる気を失った美野梨の振り下ろした網が、実の顔にすっぽりかぶさる。
「おわっ……嬢ちゃん、網……！」
　網のフチで目を塞がれ前後不覚に陥った実が前にいたすばるの背中をとーんと突き飛ばし、
「うーわー」
　突き飛ばされたすばるは抑揚のない叫び声で、自慢の網ごと木へとダイブした……！

　あたりが静かになり、伏せられた網の中ではモウヤメミンが羽をばたつかせていた。
　奇跡的に、すばるの網は獲物をとらえていたらしい。
「万事うまくいったわね？」
「切替はやいな、嬢ちゃんは……」
　鳴き声から解放されるなりそう言う美野梨を、実はそう評したという。

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