『跪いて、崇めよ』｜リアクション

『跪いて、崇めよ』

【ファッションチェック☆】

『今日はオフ』

　午後５時２１分。城山水樹のNyanstagramに一枚の写真が投稿された。
　写真は姿見越しに、頭の天辺から足のつま先まで水樹の全身を写したもので、ごく当然のように彼女の自室も、無遠慮に積まれた本も隠すことなく写り込んでいる。
　ところが肝心の顔はスマートフォンで隠れており、表情を窺い知ることができない。
　ただ気取らない立ち姿から、おそらくごくごく自然な表情なのだろうと想像することができた。
　その日の彼女は、シルエットのスッキリとした黒のオフショルダーに、大きめリボンのキャメルのサッシュベルト。
　程よく使い込まれて色の落ちた七分丈のスキニージーンズを合わせ、大胆にデコルテと足首を晒していた。
　豊かな髪にはヴィンテージ調の花柄スカーフを巻き付けてある。他に飾りらしい飾りはない。
　添えられていた言葉に相応しい、シンプルな装い。それ故に、素材の良さが際立っていた。
　１７５cmという女性では稀に見る高身長。当然ながら身長に比例して足も長い。
　それに加えて素知らぬ顔をして剥き出しになっている足首。装飾もなく、ただ艶やかに磨かれた爪。
　健康的でしなやかな脚を彷彿とさせる、そのパーツは見たものの視線を釘付けにした。

『水樹さん、今日のコーデ、めっちゃ可愛い☆』
『可愛すぎるー！！』
『水樹ちゃんスタイルいい～♪』
『細い！　長い！　水樹ちゃん、好きだ～！』
『水樹の足首、神！！！』
『真似できないよ～＞＜』
『(゜Σ　゜っ)』
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　瞬く間に多くのコメントと『いいね！』が寄せられた。

『ポーズの練習』

　午後５時２９分。再び水樹の写真が投稿された。
　一枚目と比較して大きく違う点は『作られた写真』であること。
　写り込んでいた本は片付けられており、背景に写り込んでいるのはほとんど壁だけだ。
　その上、先程は鏡越しに自然体の水樹が写されていたが、今回はコメントにもあるように『ポーズ』を取っていて、なおかつ靴まで履いている。
　脚のラインを強調するように片足を引いて、手前の脚は軽く曲げてしなやかなくの字を作る。
　一方後ろの足はコンパスの芯のように直立を保っており、１０ｃｍ以上もあるだろう高めのヒールは、よりそれらのラインを美しく見せていた。
　表情は鋭く、名画のように含みを持たせている。
　漆黒の瞳は何も映さない。ただ粛々と光り輝き、画面の向こうの誰かを突き刺した。

『カッコイイッ！！』
『ヤバイ、惚れる///』
『てか、エロすぎｗｗｗ』
『この着こなしに憧れます！』
『水樹さん、大好きです！！　これからも応援してます、頑張ってください！』
『ヤラれた……！』
『(゜Σ　゜っ)(゜Σ　゜っ)』
『神ッてる！！！！』
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　一つ目の写真を越えるコメントと『いいね！』が寄せられた。

『美脚ブームに乗っかって。私って足、綺麗かな？』

　午後５時４１分。やや間が空いて、三枚目の写真が投稿された。
　水樹はベッドに腰掛けており、片方の足は小さく折りたたむようにしてベッドの上に、もう一方の足はベッドの下に向かって投げ出されている。
　折り畳んでも足の長さは一目瞭然。投げ出した足もやはり長い。

　水樹は満面の、柔らかい笑みを浮かべている。
　少し照れくさそうに見えるのは、コメントのせいかもしれない。
　投げ出した方の足には先程まではなかった細身のチェーンアンクレットが光っていて、その光もまた、微かな恥じらいを孕んでいた。

　しかし、不思議とこの写真にだけはなかなかコメントも『いいね！』も寄せられなかった。

（あれ？　あんまりこの写真良くなかったかな……うーん）

　水樹は、この写真を見た人々がスマートフォンに向かって跪いているとも知らず、悶々としているのであった。

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