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- 種族
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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
Melt Sinner
空に滲む満月を見上げ、八神 修は栗毛の美しい馬を撫でると、冷たい風に目を細めた。星ヶ丘ホースクラブは静寂に包まれており、時折思い出したように虫の声が聞こえる他は、音らしい音は聞こえてこない。牧草が風に揺れ、草のにおいが広がる。修の愛馬、ラファールが少しだけ身動ぎをし、不意に聞こえて来た美しい歌声に彼の耳がピクリと動く。透き通るような歌声はどこかで聴いた事のあるもので、修の脳裏に一人の女の子の顔が浮かぶ。しかし時刻は既に真夜中を過ぎており、彼女がこんな時間に外を出歩いているわけがないとすぐさま否定する。けれど、彼女が歌を歌えば、こんな風に美しく人の心を動かす歌を紡ぐだろう。そう考えていた時、ラファールが優しげな、けれど精悍な瞳で修を見つめ、その瞳が記憶の中の瞳と重なる。ラファールは、修が小学校の時に買ってもらった、最初の友達だった。でも、その前に最初の友達になるはずだった犬がいた。
「カイン……」
呟いた声は、すぐに風にさらわれてしまった。
八神の家に来て間もない頃、庭に迷い込んできた犬と会った。茶色い毛並みの犬で、額にだけ白い毛が菱形に模様を描いていた。人懐っこい犬で、修と目が合った瞬間に物怖じせずに近づいてきた。柔らかく温かな背を撫でれば、嬉しそうに尻尾を振りながら修の手を舐めた。無邪気な子犬はやせ細っており、修は部屋から食べ物を持って来ると、食べやすい大きさに千切ってあげた。
その日から、犬は毎日修の元へ足を運ぶようになった。修は犬をカインと名付け、擦り寄ってくる彼を撫でながら、ずっと友達だと約束した。
修は、寂しかったのだ。八神の家の跡取りとして、何処に出しても恥ずかしくないように教育が済むまでは、健康上の理由と言う事で小学校にも通わせてもらえなかった。厳格な家庭教師に教わりながら、問題集に向かう日々。誰もが真剣な、ともすれば怒っているようにも見える顔で修と向き合う中、無邪気に走り寄ってくるカインは心を癒してくれた。
暫らくは部屋にある食べ物を与えていた修だったが、犬は本来ならどんなものを食べるのだろうかと言う疑問が湧き、書庫に向かった。膨大な本の中から動物図鑑を取り出して見ていると、若い使用人の女の子に見つかってしまった。修は慌てて本を閉じると、訝しげな顔の彼女に向かって、興味があっただけだと告げてそそくさと書庫を後にした。その日の夜、修の部屋に小さなタッパーが届けられた。彼女はこっそり、カイン用のご飯を作ってくれた。
カイン用のご飯が出されるようになってから数日後、食事の場で修は両親から叱責された。問い詰められた彼女が、カインの事を話したらしい。勿論、彼女を責められない。ちゃんと話したら考えてやると言う父親の言葉に、修はカインの事を、自分の友達であると話した。修が話し終わるまで、両親は黙って聞いていた。暫らくの静寂の後、母親は血統書のない犬はダメだと言った。そして父親は、捨てるようにと静かに命じた。考えるとは言ったが、許可するとまでは言っていないと……。
もう会ってはいけないと、カインに説明しても通じるわけがない。カインは友情を守るかのように、毎日来ては窓の下で修を呼んだ。もしも見つかったら、カインは連れ去られると思った。連れて行かれる先も何となく分かっていて、修はある日カインと一緒に家を抜け出すと、遠く離れた場所でさよならをした。
ずっと友達だと約束したのに、守れなくてごめん。
小さく呟いた修の言葉を理解しているかのように、カインは寂しそうに一声鳴くと背を向けて走り出した。あの後、カインがどうなったのかは分からない。生き延びていて欲しい、そう思う反面、社会は野良犬にとって優しい場所ではないと言う事も理解はしていた。
もしも今この場にカインがいたなら……そこまで考えて、修は目を閉じた。いつの間にか、あの歌声は聞こえなくなっていた。
オレンジ色に染まる空の下、修は霧生 深雪と一緒にカーキの散歩に出ていた。星ヶ丘駅前は人が疎らで、前方から歩いて来る年配の女性の隣に茶色い犬を見つけ、修は道をあけた。女性が会釈をし、修も頭を下げる。女性の隣を歩いていた犬の額に、特徴的な白い菱形の模様を見つけ、思わず「カイン」と名前を呼ぶ。犬がピクリと足を止め、修に擦り寄って来た。
「優しそうな犬ですね」
修の言葉に、女性が微笑む。とても優しそうな女性だった。カインが数度尻尾を振ってから、女性の隣へと帰って行く。とても幸せそうな後姿に、修の心に温かな気持ちが広がって行く。
「シュウ？」
いつまでたっても来ない修に、深雪が声をかける。修はカーキの頭を優しく撫でると、歩き出した。
さよなら、カイン……。いつまでも、幸せに……。
「カイン……」
呟いた声は、すぐに風にさらわれてしまった。
八神の家に来て間もない頃、庭に迷い込んできた犬と会った。茶色い毛並みの犬で、額にだけ白い毛が菱形に模様を描いていた。人懐っこい犬で、修と目が合った瞬間に物怖じせずに近づいてきた。柔らかく温かな背を撫でれば、嬉しそうに尻尾を振りながら修の手を舐めた。無邪気な子犬はやせ細っており、修は部屋から食べ物を持って来ると、食べやすい大きさに千切ってあげた。
その日から、犬は毎日修の元へ足を運ぶようになった。修は犬をカインと名付け、擦り寄ってくる彼を撫でながら、ずっと友達だと約束した。
修は、寂しかったのだ。八神の家の跡取りとして、何処に出しても恥ずかしくないように教育が済むまでは、健康上の理由と言う事で小学校にも通わせてもらえなかった。厳格な家庭教師に教わりながら、問題集に向かう日々。誰もが真剣な、ともすれば怒っているようにも見える顔で修と向き合う中、無邪気に走り寄ってくるカインは心を癒してくれた。
暫らくは部屋にある食べ物を与えていた修だったが、犬は本来ならどんなものを食べるのだろうかと言う疑問が湧き、書庫に向かった。膨大な本の中から動物図鑑を取り出して見ていると、若い使用人の女の子に見つかってしまった。修は慌てて本を閉じると、訝しげな顔の彼女に向かって、興味があっただけだと告げてそそくさと書庫を後にした。その日の夜、修の部屋に小さなタッパーが届けられた。彼女はこっそり、カイン用のご飯を作ってくれた。
カイン用のご飯が出されるようになってから数日後、食事の場で修は両親から叱責された。問い詰められた彼女が、カインの事を話したらしい。勿論、彼女を責められない。ちゃんと話したら考えてやると言う父親の言葉に、修はカインの事を、自分の友達であると話した。修が話し終わるまで、両親は黙って聞いていた。暫らくの静寂の後、母親は血統書のない犬はダメだと言った。そして父親は、捨てるようにと静かに命じた。考えるとは言ったが、許可するとまでは言っていないと……。
もう会ってはいけないと、カインに説明しても通じるわけがない。カインは友情を守るかのように、毎日来ては窓の下で修を呼んだ。もしも見つかったら、カインは連れ去られると思った。連れて行かれる先も何となく分かっていて、修はある日カインと一緒に家を抜け出すと、遠く離れた場所でさよならをした。
ずっと友達だと約束したのに、守れなくてごめん。
小さく呟いた修の言葉を理解しているかのように、カインは寂しそうに一声鳴くと背を向けて走り出した。あの後、カインがどうなったのかは分からない。生き延びていて欲しい、そう思う反面、社会は野良犬にとって優しい場所ではないと言う事も理解はしていた。
もしも今この場にカインがいたなら……そこまで考えて、修は目を閉じた。いつの間にか、あの歌声は聞こえなくなっていた。
オレンジ色に染まる空の下、修は霧生 深雪と一緒にカーキの散歩に出ていた。星ヶ丘駅前は人が疎らで、前方から歩いて来る年配の女性の隣に茶色い犬を見つけ、修は道をあけた。女性が会釈をし、修も頭を下げる。女性の隣を歩いていた犬の額に、特徴的な白い菱形の模様を見つけ、思わず「カイン」と名前を呼ぶ。犬がピクリと足を止め、修に擦り寄って来た。
「優しそうな犬ですね」
修の言葉に、女性が微笑む。とても優しそうな女性だった。カインが数度尻尾を振ってから、女性の隣へと帰って行く。とても幸せそうな後姿に、修の心に温かな気持ちが広がって行く。
「シュウ？」
いつまでたっても来ない修に、深雪が声をかける。修はカーキの頭を優しく撫でると、歩き出した。
さよなら、カイン……。いつまでも、幸せに……。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2014年02月13日
- 参加申し込みの期限
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- 2014年02月20日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2014年02月20日 11時00分
