春先迷路｜リアクション

春先迷路

　八神修が路地裏に入ったのは、ほんの偶然だった。
　コンビニで軽く買い物をしたくなって、そのまま運転手に断りを入れて、学校まで歩き出したのだ。
　
「あと少しで学校……だよな？」

　修は軽く首を傾げる。
　さっきから、随分歩いている気がするのにたどり着かないのだ。
　
　軽くスマホに触れ、アプリを開く。

「非表示か」

　圏外のはずはないのだが、地図が開けない。

「失礼ですが、学校はどの方向でしょうか」

　修が通りすがりの人に尋ねるが、みな、「自分達も迷っている」と首を振るばかり。
　それでも修は慌てずに、そばを通りかかった野良猫に話しかけた。

「そこの猫。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「にゃ？」
「うん、君だよ。実はね、先ほどから道に迷っているようなんだ。理由を知っているか？」
「にゃぅう、にゃぁ？」
「そうだね、よく分かるよ」
「にゃぁ、にゃーぅ」
「そういってくれると思ってたんだ。俺としてはこのままここに留まって遅刻するわけにはいかないからね」
「みゃうにゃー、みゅ♪」
「協力者がいると心強いよ」

　うんうんと猫の鳴き声に合わせて頷く修。
　周囲が唖然と見守る中、修は猫を抱きかかえ、何事もなかったかのように歩き出した。