春先迷路｜リアクション

春先迷路

「中々抜け出せないな」

　呟く刀に頷く海。
　かれこれ学校に既についていそうな時間を彷徨っているのだが、一向につく気配はない。
　それどころか、時計が明らかに進んでいない。

『ねこをなでると、うごく』

　海のスケッチブックにしたがって、刀も為にし猫を撫でてみる。
　時計を見ると、確かに進んだ。

「よく気づいたな」
　
　えへへと笑う海の頭を、もう一度刀は撫でる。

（子猫みたいなんだよな。海って）

　いわゆる小動物系。
　海が猫を撫でると、小動物が小動物を撫でているように見えて愛しさもひとしおだ。

　猫を撫でている海の頭を撫で続け、そのまま、顎の方へ手を持っていく。
　ふにっと首を傾げる海。
　嫌がってはいない様子に、もう少し刀は海の喉をなでる。
　海の声が出たなら、きっと、ごろごろといってくれたに違いない。

　くすぐったそうに、顔を綻ばす海。

「まあ学校遅刻しても死にはしない、焦って怪我してもつまらないし、のんびりと行こう」

　呟くと、海が勢いよく顔を振った。
　そして一瞬でスケッチボードに書き書き。

『ちこくはだめ』
「そ、そうか？」
『うん』
「でもこんなに天気がいいし」
『刀くん、せいせきよくない』
「うっ」
『むちこくむけっきんで、点数をかせいだほうがいいとおもう』
「お、おう」

　海に真面目に言い切られ、刀は猫を抱きかかえて立ち上がる。
　
『でも本当にいい天気だね』
「ゆっくりいこうか。遅刻しない程度にさ」

　こくりと頷く海。
　
（こんないい子を、俺は傷つけるかもしれないんだよな……）

　ふと、以前の事、これからのことが頭をよぎる。
　けれど刀は軽く頭を振った。
　どうしたのかなというように見上げてくる海の頭を撫でながら、ゆっくりと学校へ歩き出す。

　穏やかな平和が続きますように。
　願いながら、空を見上げた。