春先迷路｜リアクション

春先迷路

「なあ……学校はどっちだ？」
　
　猫と戯れること小一時。
　気がつけば、修の周囲には沢山の猫が集まっていた。

「みゃぅ？」

　小首を傾げる猫は、修からもらった笹身をおいしそうに食べている。
　とうぜん、猫用の笹身だったりする。
　さっき一度猫を抱き上げていたのだが、あまりにも周囲に猫が寄ってくるので、全員一度下ろしたのだ。

　……正直、肩の上にも頭の上にも乗られて、抱き上げている余裕がなくなったんだが。

　猫好きとしては根性で歩いてもよかったが、万が一、猫が滑り落ちて怪我でもしたら耐えられない。
　修がどんなに猫が好きでも、手は二本しかないのだ。

「ん？」

　修はふと、猫が見つめる方向を振り返る。
　そこには、圭花がきょろきょろしながら歩いていた。

「桃川？」
「あら、八神君じゃない。八神君も迷ってるの？」
「も、ということは桃川もか」
「昨日からほんとについてないのよね。愛用してたペンが壊れちゃったから、駅前のコンビニで買ったんだけど。何時もと違う道に入ったらこんなことになっちゃったのよね」
「なるほどな。俺も似たようなものでね。コンビニに寄ってそのまま路地裏に入ったら見事に迷い込んだな」
「八神君にも出口は分からないよね？」
「出口は謎だが、なんとなくヒントは掴んだ」
「お、さっすが八神君！　私にも教えてくれる？」
「恐らく猫だと思う」
「この子達？　相変わらず猫に好かれてるよね」
「さっき撫でている時に気づいたんだが、この子達を撫でると時間が進むんだ」
「時間が進む？」
「……まさか、時間にも気づいていなかったのか？」
「とりあえず歩いてれば着くかなって思うじゃない？　時間は気にしてなかったよね♪」
「相変わらず大胆だな」
「ここで八神君に会えなかったらずっと迷ってたかもね。昨日からの運の悪さも八神君に会うこの幸運の為かも。このまま遅刻するって思ってたしね」
「猫を撫でない限りは時間が止まっているから遅刻はしないだろうな。ただ、ここから出ることも出来ないが」
「撫で方にコツとかある感じ？」
「いや、多分ないだろう。問題は、撫で方よりも撫でながらでないと先に進めないことだな」
「抱っこしながら学校に向かうしかないってことよね。でもそれって、猫が途中で逃げそうじゃない？」
「いや、その心配には及ばない」
「そりゃ八神君の場合は猫が寄ってくるからね。私は特に猫に好かれてるわけじゃないじゃない？　歌でも歌ったらなついてくれるかしらね」

　るるる～とハミングしだす圭花に、修は鞄から猫じゃらしを取り出す。

「ほら、これであやしながら進めば行けるだろう」
「おおー、さっすがだなぁ。何でも持ってるよね。助かるわ」
「大分時間が進んでいるし、急ごう」
「おう！」

　圭花は修から猫じゃらしを受け取って、比較的大人しい猫を抱き上げた。

「ところで八神君」
「ん？」
「その状態で歩けるのかな？」

　立ち止まっていた修は、いつの間にか頭の上にも肩の上にも猫に群がられ、猫タワーと化していた。