金曜日の体育館裏｜リアクション

金曜日の体育館裏

　多喜勇生は、同級生の面賀苦手助がぶっとんでるところを目撃していた。
　何事かと心配になり、校舎の裏にやってきた。
「たしか、こっちの方に落ちたと思うんだよねぇ～」
　転んでメガネがずれたり戻したりしながら、辺りをきょろきょろしつつやってくる勇生は、チャリンという音に気づいて立ち止まった。
「チャリン？」
　それは、百円玉を蹴飛ばす音だった。
　転がってきた百円玉を蹴飛ばして、ドブの中に落としてしまったのだ。
「お金かな……仕方ないか。それより面賀くん、だいじょ――」

「おいコラ！　今何やった！」

　目の前には、謎の他校生が立っていた。
　そう、百円玉を必死に追いかけていた豚骨だ。
「え、えっと……？」
「百円玉をおおおお、お前はああああ、どうしたんだとおおおお、聞いてるんだああああ」
「あ……あの……えっと……」
　勇生は名前の割には勇気がなく、うじうじするばかり。
「おれっちの金をおおおお、蹴ったんだろうがああああ！」
　凄まじい迫力で睨みながら顔を近づけてくる豚骨に、勇生はもう泣き出しそうになっている。
「す、す、すみません……」
　勇生がか細い声でなんとか謝ると、豚骨はやさしく勇生の肩に手を回し、笑顔で語り出した。
「よしよし、そうビビることはねえよ。今の金は、てめえにくれてやる」
「あ、はい……では失礼しま――」
「まあまあ待ちなよ……話はこれからだ。わかってんだろう？」
「あ、はい……いえ、いいえ……」
　そして豚骨は本性を露わにした。
「金出せコラ！！！」
「ひ、あ、ひいい～」
　勇生はなんとか逃げようとするが、肩をがっちり掴まれていた。
「え、あ、ああ～」
　豚骨はあっさり財布を奪うと、中を見て腰を抜かした。
「お、お、おい……てめえ高校生だよな？」
「は、はいい。それはバイトして貯めたお金なので、あの……と、と、と、盗らないでくださ――」
「てめええええええ、ただの高校生じゃねえだろ！　なんでこんなに持ってやがるんだ！！」
　と財布から出したのは、よれよれの千円札が３枚だった。
「工具を買いに行くつもりだったので、はい、あ、ＤＩＹってわかりますかぁ？」
　勇生はＤＩＹ、つまり日曜大工が趣味だった。
「横文字まで使いやがって……てめえは……間違いねえ！　アラブの石油王だろ！」
「え、アラブ？　え？」
「とんでもねえ金持ち野郎め！　この金はもらっとくぜ！」
　勇生は勇気を振り絞って抵抗した。
「や、やめてください……そ、それは僕のお金なので……」
「おいコラ、誰に向かって言ってんだコラ！　ああ？　そのメガネ、度はあってんのか？　うさぎと遊んでろコラ！！」
　ボッコー！
　勇生は思いきり腹を殴られ……

「あ、あれれ。どうしてこんなところに、うさぎが？」

　勇生はぶん殴られ、月まで飛んでいた。
　そして地球に戻って、豚骨の前に落っこちた。
　そのとき、衝撃でメガネが転がった。
「うう、め、めが…………ね？」
「おいコラ、宇宙旅行の次は、地底旅行だぞコラ！」
　豚骨は勇生の頭を踏んづけて地面に押しつけようとした。
　が、豚骨の足、すなわち豚足はいつまで待っても振り下ろされることはなかった。
「あれれ？」
　そう、勇生が豚足をガシッと掴んでいた。
　人が変わったように勇ましくなった勇生は、そのまま足を持ってぶん投げた。
「この足で餅でもついてきやがれ！」

「あれ～～。う、うさぎさん？　……ゴバボッ」

　豚骨は、うさぎが振り上げた杵に殴られていた。
　メガネを外した勇生は、ろっこん「うらがえりのゆうき」によって、とんでもない荒くれ野郎と化していたのだ。
「ったく、ひさしぶりにキレちまったぜ……」
　豚骨にやられた身体はボロボロだが、気持ちの強さが彼に力を与えていた。
　豚骨が落下すると、ふぁさ～、と勇生の三千円が舞った。
「この金は俺がせっせとバイトして貯めた金だ。てめえにゃ一円たりともやらねえ！」
　三千円をグシャっと握りしめると、追いすがる豚骨の顔面をそのままぶん殴って振り抜いた。
「ぐぼげーっ」
　顔面から地面にめりこんで、さかさまに埋まっていた。
　が、やられればやられるほど強くなるのが、マタ工ラーメン軍団だ。
　パワーアップした豚骨は地面をぐらぐらと揺らしながら、起きあがろうとしていた。
　勇生がメガネをかけなければ、何度起きてこようが無駄だろうが……。
　と、そのとき、
「なんだい、騒がしいねえ……」
　桜崎巴がやってきた。
「このメガネが落ちてたけど、あんたのかい」
「ありがとよ」
　勇生はメガネを受け取ると、かけてしまった……。

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