ようこそ、海開き！｜リアクション

ようこそ、海開き！

●来た時よりもキレイに●

【寝子ヶ浜海岸・特設ステージ】

「わぁ、眠兎ちゃん、とってもステキだにー！（ぴょんぴょん）」
（あっ、七音さん！）
　そしてライブ中の客席に、今日の相棒、七音侑の姿も見つけて、眠兎＝風鳥院鷲羽も嬉しくなる。
（スイカ割り大会の参加者さんたちの顔も見えますね……よーし、）
「それじゃあ、最後の１曲ですっ。曲は──」

「レッツ天国ウォッチング！」
　そして、その侑たちよりもずっとずっと最前列、まさにかぶり付きとしか言いようのない位置で眠兎をウォッチングしている、熱心な観客がいた。

　→　・

　ステージのど真ん中、眠兎の足許で、点以下のサイズになっているこの男、七峯亨だ。
「うおおおお！　スカート風パレオの下から、ちらっちら見える水着サイコー！
　まさにいい足いい胸夢気分だぜっ……って、のわわわわっ！」
　ろっこん【縮身】、相変わらずの絶好調。リズム良く頭上から襲い掛かる、眠兎のステップを避けるのにも忙しくって、あんまりぼーっと見てばかりもいられないけど、
「なに、気を付けてりゃ安全そのものさ……あ、ダメだもう、理性もたねぇ」
　いちおう眠兎は男の子なんだけど、勿論そんなことは、知るよしも無い七峯である。
（あれ、何だかすっごく、視線を感じるような……
　でもこんなに沢山のお客さんがいるんですから、当然ですよね！）
　と眠兎は眠兎で、自分の足許に潜んでいるトラップに、てんで気付かなかったり。
（さっ、これが最後のサビです──ステージの仕掛けが、うまく動作しますように！）

　ブッシャーーーーーーーーー！！
　
　大きく手を上げた眠兎のポーズとともに、一斉にステージから上がる水飛沫、
「ごばああああああああああっ、そんなー！？」
　その水飛沫の奔流に、あっけなくステージ下に押し流されていく七峯……。
　ぬれても平気なそのライブ衣装で、気持ち良さそうにその飛沫と、そして喝采の拍手を浴びながら。とびっきりの笑顔で、眠兎がステージの最後を締め括る。
「夏はまだ始まったばかり。
　どうか皆さんも、この夏をめいっぱい楽しんで下さい。
　今日はどうもありがとうございましたっ！」
　

【寝子ヶ浜海岸・砂浜】

「おや森、君も掃除かね。お疲れ様」
　そして海水浴客たちが、今日の思い出を胸に帰途につく頃、自主的に海岸の清掃をしている者たちもいた。例えばこちらの、旅鴉月詠と森蓮の２人だ。
「月詠さんも、お疲れ様です」
「なに、私はサンドアートのついでに、ゴミも拾っていただけだ。
　環境破壊は芸術家的にもよろしくないからな」
「もし生ゴミがありましたら、私に分けて頂けませんか。
　猫鳴館の裏庭菜園で発酵させ、肥料にします」
　鶏に食べさせる分を確保した後も、この森、あちこちの海の家から生ゴミを集めて、こうやって猫鳴館との間を何往復もしていたようだ。
「砂に足をとられますから、こうやって猫鳴館との間を
　往復しているだけでも、身体が鍛えられますしね」
「相変わらず、君は熱心なことだな……」
　そこに、朝別れたきり別行動をしていた月詠の（本物）メイド、檜扇舞華も主人の元に戻ってきた。
「やあ舞華。いい動画のネタは撮れたのかい」
「はい、月詠さん」
　と休憩中にも、海で回していたカメラを掲げて見せ、
「撮れた動画は編集後、ネコ動に流しましょう。
　生ラジオで、今日の海開きの様子も伝えましょうか」
「やあ君たち、こんにちは！」
　そこに横嶋下心もやって来た。月詠に向かってシュタッと爽やかに手を上げ、
「君も来ていたんだね、なんか面白いもの描けた？」
「おやどうした横嶋？　随分と爽やかな第一声だな」
「ふっいつも乳尻太ももと言いながら声をかけていたからね、
　たまには変化球もいいだろう？（きらーん）」
「無理をするな無理を。まあいい、改心したと言うのなら、
　いっしょに海岸のゴミ拾いを手伝え」
「えっ、ゴミ拾いしたら、セクシーペインターと隣りのメイドさんが、
　それはそれはエロい事をさせてくれるって？　よーし頑張っちゃうよ！」
「３秒もたなかったか……」
「エロい事はしてあげられませんが、今日ネコ動に流す動画を、
　楽しみにしていてくださいね。水着の女の子がいっぱいおっぱいですよー」
　そういえば横嶋は、この舞華が流した動画に釣られて、この海に召喚されて来たのだっけ。
「たくさんコメント付けてくださいねー。
　いやー今日の寝子ヶ浜は、おっぱいもお尻もいっぱいでしたーと煽りましょうか。
　それを観た本土の方々が、大挙してこの島に遊びにきてくれるに違いありません」
「ふむ、私も空いた時間に描いていた、この大量の水着スケッチがある。
　ほしいなら、これも君にあげよう」
「ヤッターー、エッチでセクシーなお姉さんの絵がいっぱいだよ！」
　横嶋下心、今日は巫部紫苑に有り金全部むしられ、ナンパも連敗と散々な１日だったけれど、最後にちょびっとだけ良いことがあったようだ。
「よーし、頑張ってゴミ拾いも手伝っちゃうよ！」

　こうして寝子ヶ浜海岸は元通りピカピカになり、明日もこの綺麗な海に、また新しい笑顔の人々が訪れるのだ。

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