●フジコちゃんと遊ぼう●


【寝子ヶ浜海岸・砂浜】

　ところで、生徒会長が助かってスッカリ全員が安心しきっていたのだが、そういえばもう１人、海に落っこちちゃった人がいたような気がするぞ。あれ……誰だっけ……？
「ぜぇ……はぁ……や、敗れたり、海神ポセイドンッ……！
　エーゲ海の底に沈みなさい！」
　あーはいはい、ヴィーナスヴィーナス。浜辺まで自力で泳ぎつき、別の意味でビーチの注目を集めているのは、こちら財前 華蓮だ。せっかくセットしたポニテもほどけ、ワカメ髪のすごい形相に、おびえた子供も泣いて逃げ出す始末。ポセイドン氏も、いいとばっちりです。
　けれども当のご本人は高笑いで、
「オーッホッホッホ！　さすが寝子島の女神、さっそく注目を集めていますわね！
　本来だったらのんびりクルージングを楽しんでいた所でしたけど、
　こうやって優雅にビーチを歩いてみるのも、悪くありませんわ……って、ん？　んん〜？
　あら、なんだか私より注目を集めている方がいますわ？　ええと、あの方は……」


「ハ〜イ、フジコ先生、元気？」
　聞き覚えのある生徒の声にフジコちゃんが振り向けば、そこに立っていたのは１年２組の桃川 圭花だった。
「って、聞くまでもなく絶好調そうね……て言うか、さっきから何やってるの」
「あら桃川ちゃん、見て分からない？　犬小屋を担いで筋トレよ！」
　ガチムチな肉体美＆ぴっちりＶ字水着で、犬小屋トレーニングに励む寝子高教師……確かにビーチの視線を独り占めだ。
「うん、それをわざわざ海開きの日に、ここでやる意味が全然分からないわ」
「（無視して）でもアレね、カラの犬小屋だとやっぱり、ちょぉっと軽すぎて物足りないのよね……
　ああっ、どこかにいないかしら！　アタシの犬小屋に入ってくれる人が！」
　そこに偶然通り掛かった、鬼崎 あやめとバチコイ目が合い、
「フジコ先生？　アハハ今日も怖ッ……いえ、お美しいですね！
　ヒッ！？　もう犬役とかバニー役とか嫌です！　アッー！？」
　あやめをギュウ詰めにした犬小屋を担いで、もうさっそくエンジン全開絶好調のフジコ先生だ。
「へ、へえ……いつにもましてキレッキレじゃない」
　しかし圭花とて、この程度のこけおどし（？）でひるむほど、根性がヤワじゃない。
（私、汗臭いのとか超ニガテなんだけど……ここは頑張ってヨイショしないとね）
「その（どうかしてる）水着に体型を合わせるだけでも、相当頑張ったんじゃない？
　夏に向けてダイエットなんていっても大抵失敗しちゃうから、羨ましがってる子も多いと思うわ。
　犬小屋ダイエットって、うん、きっとこれから流行るんじゃないかしら」
「あら、そう？　ウフフあなた、なかなか美ってものが分かってきたわね」
　フジコちゃんのご機嫌がみるみる良くなってきたところで、圭花が本題を切り出す。
「あ、そうだ。ね、私ちょっと退屈してて。かるーく遊んでくれない？」
「遊び？　悪いわね桃川ちゃん、見ての通り筋トレちゅ……」
「ああでも……フフ。そういう身体だと重くて、
　スポーツとか逆にしんどかったりするの？」
「（メキメキィ）ヒイッ！？　フジコ先生、犬小屋を！？
　あやめの犬小屋を、握力だけで潰さないでくださいー！」
　さあフジコちゃんが、圭花の挑発に乗ってきた。そこですかさず、用意してきた旗を取り出し、
「ビーチフラッグなんて、シンプルだし面白いかと思ったんだけど」
「いいわね。そのゲーム、乗ったわ（即答）」
　ばちばちと、目から火花を散らす、フジコちゃんＶＳ桃川圭花。
「ちょっとフジコ先生！」
「あら今度は、財前ちゃん」
　そこにやって来た財前 華蓮も、猛然と先生に詰め寄り、
「寝子島の女神と呼ばれている私を差し置いて、何目立ってるんですの！
　寝子ヶ浜中の熱い視線を独占できるのは私以外にありえませんわっ！
　こうなったらどちらが寝子島の女神か、
　はっきりと格付けする必要がありますわね！（ビシィ）」
　と華蓮も、寝子島の女神の座を賭けて、ビーチフラッグに堂々参戦だ。
「ヒッ！？　わた、私はフジコ先生と争うなんてー！」
　鬼崎あやめも成り行きで強制参加させられ、これでゲームの参加者は４人になったのである。


◇


　ビーチフラッグは、いわば旗を使った「イス取り遊び」で、争奪する旗の数は、常に参加者の数より１本少ない。
　この場合、４人の参加者に対して３本のフラッグが立てられ、旗をつかめなかった１人は敗者となりリタイアとなる。引き続き旗を２本、１本と減らしていき、最後の旗をゲットした者が勝者、というゲームだ。
「でも、ただそれだけじゃ面白くないわねえ。
　負けた人は、次の旗役になる、っていうのはどうかしら？」
「は？　旗役？　え、それ、どういうこと？」
　面食らって訊ねる桃川 圭花に、フジコちゃんが、
「論より実戦、ホラ、やってみるわよ！」
　砂浜に寝転んだ４人の水着美女（←フジコちゃんと華蓮含む）が、
「ヘッドダウン……ゴー！」
　の号令で、いっせいに砂浜の旗へと殺到。
「オーッホッホッホ！　ビーチフラッグの戦法？
　女神に小細工などいりません！　突撃あるのみ、ですわーー！」
　威勢よく飛び出した財前 華蓮が、旗を取れずにさっそく負け、
「って、な、なんですの、これはーーーーーー！？」
　首まで砂浜に埋められ、その頭にフラッグを立てて、次の「旗役」となった。
「ヒッ！？　む、むごいですー」
「あー旗役って、こういうこと……（ごくり）
　これは……負けられないわね」
　一気に緊張の走る鬼崎 あやめと圭花をヨソに、
「ありえませんわ！　寝子島の女神であるこの私が負けるなんて！」
　と言い訳にそれはもう必死な華蓮さん。
「これは……あれですわ！　遠泳のせいで体力があれだったのですわ！
　おのれ！　それもこれも全部、私の美しさに嫉妬したポセイドンの」
「（聞いてない）さあ、第２回戦、いっくわよ〜！」
　ウキウキのフジコちゃんと並んで、スタート地点に伏せる圭花には、しかし秘策があった！　秘策と言うか、トラップだ。海の家からレンタルしてきた網を、実はあらかじめ砂浜に埋めておいたのである。
（フフ……フジコ先生、次の旗は先生に取らせてあげるわ。でもね）
　ゴー！の合図で飛び出す３人、その圭花は旗ではなく、砂浜からちょこっと覗いた網の端へと走り、
「旗に倒れたとこを、この網でくるんであげれば……
　勝負？　あは、そんなことよりもっと面白いことがあるでしょ？
　網目模様の日焼けあとなんて、ユニークだしセクシーなんじゃない、ねえ先生……
　Σ って何であなたが引っ掛かってるのよ！」
　タコ糸で縛られたハム状態でお色気をかましている、あやめを圭花が二度見する。
「ひ、酷いですー……もうお嫁に行けませぇーん！」
　そして悠々とフラッグを手にしたフジコちゃんが、ニヤリと圭花の頭に、その旗を差しに来る。
「そんな……ウソでしょ、まさか」
「さあ、桃川ちゃん。今の勝負は、旗を取りに行かなかったあなたの負け。
　３回戦は、あなたが『旗役』ね！」
「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー！！？」
　首まで砂に埋まって圭花、絶叫。
　そして残る選手はあやめと先生の２人なのだが、ハム状態で転がるあやめが、もちろん旗を取りに行けるはずがない。それはもう満面のイイ笑顔で、ドスドスとこちらに独走してくるフジコちゃんに、必死で首を振りながら、
「ちょ、先生！　もう勝ちは決まってるんだから充分でしょう！？
　やめて、やめな……やめなさああああああああああああいっ！！」
　そう絶叫する圭花の顔面に、フジコちゃんの肉体美が、全身ダーーーーイブ！！


　寝子ヶ浜第１回（？）ビーチフラッグ大会、勝者……富士山 権蔵フジコ先生。
　キュウ、と砂に埋まって目を回す圭花、ハムのあやめ、まだ言い訳に必死な華蓮と、生徒陣はことごとく全滅……寝子高教員最強の一角はやはり、微動だにしなかった。しかしその最強教師に果敢に勝負を挑んだ、少女たちの勇気は、称えられてしかるべきだろう。
　ありがとう！　ありがとう皆！
　寝子ヶ浜ビーチから、生中継でお送りしました！（ワーー）