●浮島をつくろう（３）●


【寝子ヶ浜海岸・沖】

「「わわわわわっ、すっごーーーーーーいぃ！！」」

　こうして浮島まで案内された、天馬 ひびき、雨寺 凛、夏神 零、御巫 時子は、洋上のパラダイスを見て、いっせいに驚嘆の声を上げた。そして新たにこの島を訪れた来客を、八十八旗 信彦がこころよく出迎える。
「やあやあ麗しのレディならもちろん、みんな大歓迎だよっ」
「いやだから拙者はオト……」
「ささっ、上がって上がって！」
　２匹のイルカとシャチフロートの鼻先を、浮島の端っちょに繋留して、我先に上陸する女の子たち。挙動不審な海原 茂の様子に、何となくピンときていた天馬 ひびきは、生徒会長がうっかり海に落ちないように、それとなく手を貸してあげる。
「す……すまんな」
「どういたしまして」
「さぁみんな、戦利品よ！（ドサーー）」
　そして凱旋した神薙 焔が、浜から略奪（おすそわけハント）してきた料理や飲み物を、みんなで広げて、さあランチタイムの始まりだ！
「おおっ、串焼き肉じゃないか、すごいな！
　どうしたんだ神薙、これ」
　と肉汁たっぷりの串にかぶり付いて龍目 豪が聞けば、
「野蛮な原住民ども（バーベキューしてた生徒？）を、
　懲らしめて（水鉄砲で勝負を挑んで）分捕ってきたのよ！」
　ちなみに、夏神 零が捕まえた魚は流石に、火気厳禁のこの島では調理できなかったので、ゴムボートの１つに水を充たして、そこに放して眺めて楽しむ。こういうフレキシブルな使い方が出来るのも、この浮島の良いところだ。
「茂さん、どうぞ。このお好み焼きも、美味しいですよ……？」
　海原生徒会長も、浮島とは言え、溺れる心配のない場所に腰を落ち着けたことで、ようやく人心地がついたようだ。御巫 時子から勧められるがままに、紙皿を受け取って、
「（ぱくり）うん、美味い。うまいな。
　この浮島を最初に見た時は、驚かされたが……
　こんなふうに変わった場所で食べる料理も、悪くないものだな」
　北原 みゆきも、その言葉に同意して頷く。
「海の真ん中で、潮風に吹かれて、こうやって皆で食べるごはん。
　私いま、とってもいい気分です……」
　時子もまた、海原の隣りで微笑みながら、同じことを思う。
（茂さんと無事に帰れたら、海の家で休憩しようと思っていましたけれど……。
　このまま今日は、ここでいっしょに過ごすのも、いいかもしれませんね……）





「おお〜い、みんなっ！」
　その明るい声に、一同が上を見上げれば。
　ひと足先に食事を終えて、さっそく島を使って遊んでいるのは瑚野上 栞凪だ。この浮島はただ海面に、浮き輪やゴムボートを並べただけの島ではなく、島の一部が遊具のように、高くなったりもしている。
　その１つ、浮き輪をエントツのように積み重ねた塔のテッペンで、栞凪がぶんぶん手を振って、
「ここからジャンプして海に飛び込んだら、面白そう！
　やってみるから、みんな、見ててね……えいっっ！」
　そう言うなり、思い切り良くジャンプ！
　見事なアーチを描いて海に飛び込む、その栞凪の姿に、
「わあっ……！」
　一同、声を合わせてびっくりだ。
　海面に浮上して、自分でも目をぱちくりさせている栞凪、
「栞凪ちゃん、今、すっごく高く飛んでたよ。
　飛び込みの選手みたいに、綺麗だった！」
　感動して浮島の端から身を乗り出し、そう報告するみゆきに、
「うん、これ、私のろっこんみたいなんだー、
　ジャンプすると高く跳べるの。もう１回やってみるね！」
　すぐにはしゃいで、ぴょんぴょんざぽーんと、跳び込みをくり返す。
「あはは、何か楽しくなってきた！
　もっともっと高く、跳べそうだよ！」
　実際には栞凪のろっこん【JUMP！】は、重力を操作する能力なのだけれど、本人はまだまだ、そのことには気が付いていない様子。
「わわっ、面白そう！　栞凪ちゃん、私もやるよー！」
　と雨寺 凛もいっしょになって浮き輪の塔をよじ登り、海にダーイブ！
「うわあっ！？」
　そして島の浮き輪の穴の１つから顔を出し、びっくりして腰を抜かした八十八旗 信彦を見て、
「あははは、信彦くん、驚いたー？」
　と凛が大笑いする。
「あーびっくりしたよ……そうだ！（ヒラメキ！）
　じゃあレディたち、こんな遊びはどうだい？
　この浮島のあちこちに、浮き輪の穴が空いてるだろ？
　それを利用して、もぐらたたきゲームをするのさ！」
　そのモグラ役を買って出た、八十八旗が穴から顔を出すたび、水鉄砲の集中砲火を浴びせて、
「あはははっ！　モグラひこにゃん、よわーい！」
　と栞凪たちはお腹を抱えて大笑いする。
「いいさいいさ、だってレディを楽しませるのが、紳士の務めだからね！」
　といつもの調子で強がってみせる、自称爽やかイケメン紳士、

　ざぶ〜〜〜〜〜〜〜〜んっっ！！

　今度は、モロに頭上から大きな波をかぶり、またまた女の子たちに指を差されて大笑い。
「ぷはっ！　ぺっぺっ、ちょっと舞衣ちゃん！？
　いきなり何をするんだいっ！」
　水上バイクをかっ飛ばして遊んでいた霧桐 舞衣が、浮島の手前で急ターンして、水飛沫を浴びせたのだ。
「チャラ彦くん、そのエンターテイナーの心意気、リスペクトっす！
　及ばずながら私も、協力するっスよ！」





「ははは、おい、ノブヒコ！」
　こちらもそれを楽しそうに見ていた龍目 豪が、
「モグラやるなら、装飾品は外しといたほうがいいんじゃないか？
　なくすと大変だぜ？　どれ、俺が代わってやろう」
　とパーカーを脱ぎ、次のモグラ役に名乗りを上げる。
「よし、俺のモグラは、そう簡単には捕まらんぞ？
　何しろトンネル掘りで、鍛えまくってるからな！」


◇


　そして後輩たちとひとしきり遊んだ後、龍目 豪は借りてきたスタンドアップ・パドルボードにも、チャレンジしてみる。これはサーフィンの１種で、大きなサーフボードの上に両足で立ち、オール（パドル）を使って漕ぐというもの。サーフボードで波乗りができ、カヌーのように漕いで楽しめるという、いいとこ取りのウォータースポーツなのである。
　同じマリンスポーツエリア内で、水上バイクで遊んでいる霧桐 舞衣とは、ぶつからないようまめに声を掛け合いながら、
「──こうやって海の上で立ってると見晴らしがいいから、
　誰かが救助を求めてても、すぐ分かるな。
　後輩が無茶しないよう、見守っておくか……んっ？」
　そこで龍目は、水平線からまっしぐらにこちらに向かってやって来る、１隻の船に気が付いたのだ。その船首に仁王立つ人影を目撃して、
「おい、ありゃまさか……？」







「オーッホッホッホ！　水も滴るいいヴィーナス！
　さあさあ、寝子島の女神が寝子ヶ浜に降臨しましたわー！」
　と大海原いっぱいに、高笑いを響かせて。
　自家用クルーザーで派手に登場したのは財前 華蓮、今日はポニテに赤ビキニというフレッシュな格好で、ビーチの視線も独占確実だ！　もちろんカメラアングルにだって気を使い、少しでも自分の胸を大きく見せようという、涙ぐましい演出も忘れない……まさにＢ（ビー）ナスッ！
「パーフェクトですわ！　……といってもまあ海上なので、誰も見てませんけど！
　まあいいでしょう、誰も見ていなくても、
　私の美しさは変わらないのだから（キリッ）
　……ん〜！　今のはいい台詞でしたわね！
　私の自伝のためにメモっておきましょう！（さらさら）」
　と財前語録にメモっていたので、前方にみるみる迫る浮島に、華蓮が気付かなかったのも、ああ、これは無理からぬ！　全くもって無理からぬ話なのである。


　どごっぱーーーーーーーーーーーーーーんんっ！！


　浮島にまっしぐらに突っ込むクルーザー、
「ってちょうぉーーーーーーーーーーーーい！！」
　船首から放り出されて、海に落っこちる華蓮、
　ああ、そして──クルーザーの直撃を受けた浮島が、バラバラに崩壊して沈み始めた！