●２人２脚スイカ割り大会（５）●


【寝子ヶ浜海岸・スイカ割り大会会場】

（わー、気楽にお願いしちゃったけど、
　おんぶされるのって恥ずかしいなあ……皆見てるし……）
　立井 駒鳥を誘ってエントリーした遠矢 護は、ちょっともじもじ。さっきまで自分の身体を隠していた浮き輪も無いので、バッターの背で不安げだ。競技がスタートしても、その立井がまだ歩き出さないことに気付いて、
「あ、そっか、あーえーと、ナビしなきゃ……って、わわっ！」
　ヒュンと立井が急に素振りをして落っこちそうになり、慌ててその首根っこに、ぎゅーっとしがみつく。
「あっ、ごめんなさい！　苦しくなかったですか」
「クハハ、スマンなもう揺らさんよ」
　呵呵と立井が笑って、
「止まった時と動いた時の、重心の変化を確かめとったんじゃ。
　姿勢が安定する位置を見つけたからな、これでもう大丈夫」
　危なげなく自分を片手で支え、もう片方の手で棒を振りかぶる立井に、「へえぇ……」と遠矢が感心する。
「やっぱりすごいんですね、立井さん」
「鍛えとるからな、任せとけ。それじゃ、ぼちぼち行こうかの」


「か……肩車、でありますかっ！？」
　一方、ここでルールを初めて知って、愕然としているのは、こちらの小倉 杏子。いつもお世話になってる荒海 藤吾と、いっしょに参加できるのが嬉しくて、気軽に出場してしまったこの大会だけれど。競技中はペアと密着と聞いて、大慌てだ。
「ああ、そうだ。おんぶじゃバットが持ちにくいし、
　俺たちの体格差なら、ここは肩車をした方がいいな。
　小倉、俺の肩に乗ってくれ」
　ほら、としゃがんで小倉を手招きする荒海に、
（どっ、どうするでありますか！？
　け、けど、おんぶよりはまだ、肩車の方が……）
　恥ずかしくないかも？と思い、おどおどと杏子はその肩に跨る。
「落ちないように、しっかりと掴まっててくれよ……
　っと、本当に軽いな。ちゃんと飯食ってるのかよ？」
「あ……はうぅ……（真っ赤）」
　ヒョイと苦もなく立ち上がって、平然とそんなことを聞いてくる荒海に、杏子はしどろもどろ。太ももで彼の頭を挟み込むようなこの格好、もしかしたらおんぶよりも密着度が高いかも……？
（流石にちょっと恥ずかしいであります……！
　け、けど荒海さんは気にしていない風ですし……！
　う、うぅ、頑張るであります！）
「あ、そうだ小倉。始める前に、ひとつ忠告しておく」
「……はっ！　ななな何でありますか？」
「ナビ役が落ちると、そのペアは失格だ。
　つまり、中には積極的に落としに行こうって奴らも居るかもしれない。
　そういう奴が居たらすぐに知らせて、どっちによけたらいいか教えてくれ」
「わ、分かったであります！」


「くそっ、何で俺がこんな……」
　日向 カノンに呼び出されて、大会に参加する羽目になった吾妻 優もまた、ドキドキ組（？）の１人だ。こちらの場合は、男女逆のケース。いつものようにどうにか、やる気なさげに振る舞おうとはするものの、
「ちょ、おまっ！　くっ付くなよ！」
　背中ごしに感じるやわらかな感触に、先ほどから吾妻のペースは狂わされっぱなし。ナビを担当するカノンの方は、そんなバッター吾妻の動揺など、まるで頓着せずに、
「しっかり密着しないと、僕が落ちるだろう？
　ほら、右からまた人が来るよ。
　ぶつからないよう距離を取って……ユウ、ちゃんと聞いてる？」
「お、おう……」
　そう言われて、競技に集中しようとはするものの……
　自分が身動きするたびに、やわらかにその形状を変えていく２コのふくらみに、注意はひたすら逸れまくっていく一方だ。
（……水着見た時も思ったが、やっぱ日向も女の子なんだな……）
　しかも今、吾妻とカノンの身体を隔てているのは、その学校水着の布地、１枚きりなのだし？
（って、何考えてるんだ俺は！　ナシだ！　今のナシ！）
「ユウ、集中。Kein Problem（大丈夫）」





　カインプロブレーム、大丈夫だから。
　相方が（何故か？）競技に集中できていないと見て取ったカノンが、その頭を軽く叩いて、安心させるように囁く。
「ほら、しっかりバットを持って。この僕がナビをしてるんだから、大丈夫。
　何も心配要らない。分かった？」
「お、おう……分かった（こくこく）」
「よし、食が絡むと僕は本気だよ。さあ進もう」
　ふにょりん……
　再び押し付けられるその水着の胸が、また吾妻の心拍数を天井知らずにハネ上げて。
（って、ぜんぜん大丈夫じゃねぇえええしっっ！）
　ダルそうにしてても、そこはやっぱりケンゼンな普通の男子高校生。色々とアレな吾妻君なのだった。
「えぇい！　さっさと終わらせて、さっさと帰るぞ……！」


　相方に振り回されているのはまた、こちらの信楽 世平も同様だ。
「そこだ！　天より降り注ぎし刃を受け止めよ！」
「ええと……ルシ様、今度はそれ、どっちの事言ってんですかい？」
「ええい、分からぬのか？　この度し難く愚かな人間め！
　つまり、天より（訳：太陽がある方向へ進んで）と言っているのだ！」
「だったらそうと言ってくだせぇ、あっしじゃ分かりゃしやせんぜ！？」
　ルシ様こと葦原 忍穂の分かりづらい中二語指示を、どうにか解読しようと頭を働かせる信楽だったが、ここまでこのペア、１個もスイカが割れてない。
「……仕方ない、人間にも分かりやすく説明してやるとしよう。
　南……つまり現在の位置を起点として、１１時の方向へ向かうがよい」
「ひゃーありがてぇ、ようやく話が分かりやすぜ！」
　ルシ様が下界の我々にも通じる言葉で、ナビゲートしてくれるようになったおかげで、やっと信楽の棒もスイカに当たり始めた。
「あのー、割るだけ割ってお終い、じゃねぇですよね？
　勿体ねぇですし、後で西瓜食いましょうや。ね、ルシ様？」
「……乗りかかった船だ、我も手伝うとしようか（訳：わー楽しみだなー）」
　こうして信楽＆ルシ様のペアも、後半徐々に調子を上げていくことになる。


　同じく、少しずつ息の合った所を見せ始めてきたのは、先ほどの立井 駒鳥＆遠矢 護ペアだ。
「左斜めに２歩です。右５度、はい振り下ろしてください！」
「ほいや！　（ばこんっ）これで３個目じゃ、いい調子じゃの、相棒」
「はっ……はい！」
　ちょっと息切れしながらも、その言葉に嬉しそうに遠矢も頷き、
「あ、次です、右に横移動６歩、右４５度旋回、……」
　短い言葉で、テキパキと指示を出す遠矢のナビに、タイムラグなく反応して、即座に応えていく立井のコンビ。そんな２人に、観客席からも声援がとぶ。
「護くん、その調子ですよー！　頑張ってくださいね！」
　ドキッとしてそちらを見れば、応援してくれているのは、同じ１年４組のクラスメイト、綾辻 綾花だ。同じくいっしょの野々 ののこたちも、
「駒鳥君！　そのスイカ、いっしょに食べる約束だからね〜！」
「クハハ、その声は野々じゃな？
　分かっとる、分かっとる……（スカッ）っとと、しもうた！」
　けれど空振りしても、呵呵と笑って済ませ、
「クハハ、失敗失敗。いっそ手刀とかどうじゃ？」
　そんな２人の様子に、声援を送る夢宮 瑠奈たちの笑顔も、自然とほころぶのだ。
「何だか、すごく楽しそうだね、立井君たち」
　綾花もそれに答えて、
「ええ。それに、頑張ってる人は自然と応援したくなりますよね」
「グヘヘ！　それに、セクシー＆キュートな雄尻は、自然と揉みたくなるのだ！」
「（ゾクッ）！？　あ、右から人来ます１歩前に！」
　ズドドドド……とこちらに突進してくる桃原 空音＆志田 朝陽ペアを、ヒョイと避ける立井たち。
「（つるっ）どわっ、何か踏んだ！
　どうなってんだ、うわわわわわわわああああっ！」
　そのまま玉乗りよろしくスイカに乗って、
　ドンガラガッチャーーン！！　→観客席に突っ込む志田。散乱するスイカといっしょに、空音も地面に落っこちて、この２人はあえなくここでリタイアだ。
「だーーーーーーっ！？　何やってんだ、空音！
　他の選手にセクハラすんなって、あれほど言ったろ！」
　目隠しを引き千切って怒る志田に、空音も涙目で、
「だってだって！　朝陽くんがお尻に触らせてくれないんだもん！
　だったら他の人のお尻を揉むしかないじゃない！　ムキーー！」
「いや意味分かんねーから！？」
「どうして分かってくれないのさ！　あああ漫画３０冊がこれでパアだよ……
　罰として朝陽くん、これは穴掘り決定だねっ！（お目々キラキラ）」
「いやだから、全部空音のせいだろ！？
　お前、実はぜんっぜん反省してないだろ……おいやめろ！　そのてへぺろやめろ！」