●２人２脚スイカ割り大会（６）●


【寝子ヶ浜海岸・スイカ割り大会会場】

『さて、スイカ割り大会もいよいよ後半戦ですぞっ！』
　実況＆解説も兼ねた中沢 リッカルド町長が、マイク片手に改めて、大会の経過をまとめる。
『現在トップを行くのは、シグレ・ナイトウォーカー＆緋紅朱 赫乃ペア。
　割ったスイカは、ここまで５個。ブラーヴォ！
　空振りの全く無い、そのスマートなプレイスタイルに、女性ファンも急増中ですぞ！』
　片手を軽く上げて、その観客席からの声援に応えるシグレ。
『２位に並ぶのは、２組ですな。スイカ４個を割った、
　荒海 藤吾＆小倉 杏子ペアと、志波 拓郎＆志波 武道の兄弟ペア。
　杏子選手の方は、先ほどとは人が違ったような、鬼気迫るナビっぷりですなァ！』
「勝負するからには絶対に勝つ！　さぁ行くぞっ！」
『スバラシイ気迫！　一方の志波ブラザーズも、こちらはさすがの兄弟だ。
　以心伝心のコンビネーション、兄弟の強い絆が、ひしひしと感じられますな！』
「さっすが町長わかってるぅー！　いぇーい俺達仲良し兄弟☆」
『兄弟の固い絆が！　ひしひしと！　伝わってきますなア！』
「…………（ビタッ）」
「あるぇ？　どしたのたー坊、固まっちゃダメ、動いてぇー！？
　はいどーたー坊☆　はいどーたー坊☆」
『おっと、志波ペアが突如立ち止まってしまいました！　これはどうしたことでしょう？
　その隙に横からスイカを割って、同じく２位に浮上してきたのは、
　立井 駒鳥＆遠矢 護ペア──こちらも目覚ましい追い上げを見せます！』
「わわっ、今のスイカで２位ですって……頑張りましょうね、立井さん！」
「おう、遠矢！」
『さらに３位には、虎沢 英子＆緑野 毬藻仔ペア、葦原 忍穂＆信楽 世平ペアが続きます。
　おや、邪衣 士＆鬼崎 あやめペアの姿が、いつのまにか見えません……
　あの２人はいったい、どこに行ってしまったのでしょうか？（きょろきょろ）
　それに、因幡 眠兎＆七音 侑のペアは、先ほどからどうも調子が悪そうですねぇ』
「あ、あえ？　ウチのナビが悪いのかな……。
　ごめんね、眠兎ちゃん（しょぼん）」
「いっ、いえ！　七音さんは全然悪くなんかありませんからっ！」
「そ、そう？」
（どっちかって言うと、僕の問題で……）
　いつ正体がバレるかヒヤヒヤの風鳥院 鷲羽、競技にまるで集中できないのである。
「じゃあ、どんどん指示出すね！
　まっすぐゴー！　ちょっと右ー次ぎ左ー」
「は……はいっ」
　それでも、自分に無邪気な信頼を寄せる侑に、少しでも応えなければと思う鷲羽だ。元々は剣道部に籍を置く身、棒振りの扱いが苦手なわけではない。
「１歩さがってチェストー！」
「（ばこっ）手応えあり……１個目です！」
「やったにすごいに眠兎ちゃん！（背中でぴょんぴょん）
　あのねーウチのクラスにも、剣道すっごい男の子がいるんだけどね！
　今の、そのコと同じくらいカッコイイ太刀筋（？）だったに！」
「へ、へえぇ……そうですか、は……はは…………（冷や汗だらだら）」
「よーし、じゃあ元気よく、次行ってみよーっ！
　右！　もうちょい右！下下！左！左！　……あえ？　なんかこれってゲームみたい？」


「聞いたか赫乃、今俺たちがトップだそうだぞ？」
「うん、……」
「「キャーシグレ様ぁ、こっち見てぇ！」」
　こちらはその暫定１位のシグレ・ナイトウォーカー＆緋紅朱 赫乃ペア。女性の観客の声援にも分け隔てなく手を振るシグレに、けれど赫乃の心はちょっぴり落ち着かない。シグレのことを完全に信頼しているから、嫉妬するということはないけれど。それでも……
（シグレさん、私はここ、だよ……？）
　ぎゅっとその背中にしがみつき、もっと自分を感じてほしい、そう思う赫乃だ。
「はは赫乃、腕回すのはいいけど、首締めたら流石の俺も危ないからな？
　あ、しがみつくときは腕だけじゃなくて足の方絡めとくといいかもな」
「うん……あ、３時の、方から、人が、きてる、よ」
　余裕をもってそれを避けるシグレに、切羽詰まった赫乃の次の指示がとんだ。
「また来た……９時、の方向……！」
「？　今避けたばかりだろう？　俺が躱しそこなったのか？」
「ううん、違う……同じ、人が、こっちを転ばせに、来てる……！」
「赫乃、了解した。指示をくれ」
「だめ……これ、もう避けられ、ない……！」
　ぎゅっと目をつむる赫乃、ぶわりと大きく自分たちの体勢が崩れるのを感じ……
「え…………？」
　気が付くと、彼女はシグレの両腕に抱かれて、お姫様抱っこされていた。
「落とさなくて良かった。怪我は無いか、赫乃？」
「うん、でも……これじゃ、シグレさんが、棒を持てない、よ……？」
「いいさ、優勝が目的で参加したんじゃないしな。町長！」
　シグレは目隠しを外して、そこで審判のリッカルドに、自分たちのリタイアを宣言する。
「シグレさん、どう……、して？」
「赫乃が怪我をしないことの方が、俺には大事だ。
　それに……ずいぶん長い間、赫乃の顔を見ていなかったしな。
　どうにも我慢できなくなっていたところさ」
「長い……って、たった、十数分だ、よ？」
「俺には永遠に等しい時間さ。
　そして、俺の恋人はこんなに綺麗だったのかと、今改めて、驚いているところだよ」
　余裕たっぷりにそう微笑むシグレに、
「もう……」
　それだけしか言えずに、その胸に顔を埋める赫乃。シグレは笑ってその頭を撫で、
「赫乃が自分からこんなにくっついてくることなんてあんまりないし、今日は楽しかったな」


『マンマ・ミーア！　これは番狂わせ、シグレ＆赫乃ペアがリタイアしてしまいました！
　これで荒海＆杏子ペア、志波ブラザーズ、立井＆遠矢ペアが同数１位。
　さらに、ものすごい勢いでこれを追い上げるのは、後木 真央＆猫村 翡翠ペアです！』
「シグレたちがリタイア？　一体どうなってる？　小倉、状況を説明してくれ」
　目の見えない荒海 藤吾が、肩車の小倉 杏子に訊ねるが、
「ええい、動揺するなっ！　戦場での動揺は、即ち死を意味する！
　貴様は大人しく上官の命令を聞いておれば良いのだ、
　分かったかこの変形コートハンガー野郎！！！」
「へ、へんけ……？」
「ばかもの！　返事はSir, Yes Sirだッ！
　来るぞ、敵襲！　右に２歩避けた後、足を使って反撃！」
「ぷぎゃ！？」
　足の裏に確かな手応えを感じ、姿の見えない何者かを返り討ちにしたことを悟る荒海。だが……ぐらり。バランスを崩した杏子が、肩の上から落ちそうに！
「小倉、しがみつけ！」
　咄嗟にその足を支え、杏子も全身を丸めて、荒海の頭に齧り付く。結果、どうやら落ちずに済んだ。けれど、杏子の持っていた簡易メガホンが、コロンコロリと砂浜に。
「あう……私のメガホンが、落ちてしまったでありますよ」
「いいだろ、小倉。片手にメガホン持ってたままじゃ、
　今みたいにまたバランスを崩すぞ？」
「そ、それもそうでありますね……」
　というワケで、鬼軍曹モードから元の性格に戻った杏子、ようやく荒海に状況を説明する。
「後木さんであります！　後木 真央さんが四つん這いで走り回って、
　他のペアを次々に、転ばせているのでありますよ！」