●２人２脚スイカ割り大会（２）●


【寝子ヶ浜海岸・砂浜】

「海開きか……たまには悪くねぇな」
　ハーフパンツの水着に着替えた荒海 藤吾は、にぎわう砂浜を見回した。今日は小倉 杏子に誘われ、海にやって来たのだ。着替え終わったら、この辺で待ち合わせる約束だったのだが……。





「荒海さーん！　どこでありますかー！」
　ああ、いたいた。きょろきょろと目の前を通り過ぎようとする、もふもふ髪の少女に、
「小倉、おい。ここだ」
「うぅ……人が多すぎて、荒海さんが見つからないであります」
「いや目の前にいるだろ」
「はっ、もしや先に帰ってしまったのでありますか？
　たまには私の方からと思って、誘ってみたのに……
　そ、そんなの悲しいでありますよ！　……ひぐ……荒海さーん！」
「小倉、ホラ俺だって（手で前髪上げ）」
「Σ って、目の前にいらっしゃったであります！？
　髪を下ろしてらっしゃるので気付かなかったであります！」
「そこまで印象違うのかよ……まぁ、普段は大体ヘアバンドだしな、仕方ねェか」
「荒海さん、髪を下ろしてるのも似合うでありますね！」
「おう、さんきゅう」
　さっきまでの泣きべそ顔はどこへやら、にぱー、と笑う少女の頭を撫で、
「小倉の水着もかわいくてよく似合ってるよな」
「そそっ……そうでありますか？　えへへ……
　荒海さんにそう言ってもらえると、嬉しいであります（にへら）」
　そうして、しばらく２人で歩いていると、スイカ割り大会の会場を通りがかった。
「ん？　なんかやけに騒がしい場所があるな。
　……スイカ割り？　賞品は３万円分の商品券か。
　小倉。これ出てみないか？｣
「わぁ、楽しそう！　出たいでありますっ！
　スイカ割りなんて初めてであります、楽しみであります♪」


【寝子ヶ浜海岸・スイカ割り大会会場】

　そうやって続々と出場選手がエントリーしていく、こちらスイカ割り大会の会場。
「いやー、あちーなオイッ！　やっとこの季節がやってきたぜ。
　やっぱ夏と言ったら海だよなっ！　ヒャッホーイ！」
「うん、絶好の海日和！　おにゅーの水着も買ってきたから、すっごく楽しみ！」
　そこに仲良くやって来た、虎沢 英子と緑野 毬藻仔の２人も、興味津々で足を止め、
「おん？　何か面白そうなことやってんじゃん？　いいね、参加しよーぜ！」
「変わったスイカ割りだね、うん、やってみよー！」
　そんな選手たちを受付へと案内しながら、
「２人２脚スイカ割り大会、間もなくエントリーの〆切りですよ！
　賞品はシーサイドアウトレットの商品券３万円分！」
　と砂浜を行く人にも明るく声を掛けているのは、因幡眠兎こと風鳥院 鷲羽だ。
（今日もアイドル因幡眠兎として、が、頑張ります！）
　こちらの鷲羽は、スタッフとしての参加。この後、ミニライブを砂浜でやらせて貰う条件として、リッカルド町長に大会のアシスタントを申し出たのである。
「皆さん、ふるってご参加下さいねー（にこっ）」
　笑顔をふりまくその可愛らしい声に釣られて、宇佐見 望月と桐野 正也、そして七音 侑の陸上部３人組もやって来た。
「うおっ、すっげー可愛いウサ耳のおにゃの子がいる……
　じゃなくて。２人２脚スイカ割り大会？　なんじゃこら？」
「スイカを割る人と、それを誘導するナビ役の、２人１組で行う競技なんですよ」
「面白そうだから参加してみっか、正也ちゃん」
「へー確かに面白そうだな、んじゃ俺とペア組むか。七音はどうする？」
「ほへーおもしろそ！　あの、ウチ１人でも参加できますかー？」
　と気軽にこちらに訊ねてくる侑に、
（はうぁぁぁ！！　同じクラスの七音さん！？）
　内心では動揺しまくりの鷲羽。アキバ系アイドル……それも女装してアイドル活動をしているだなんてこと、クラスの誰にも内緒にしているのに！
（あうあう、今の僕は因幡眠兎、そう、因幡眠兎なのです……鷲羽？　知らない子ですね）
　必死に自己暗示を掛けて顔を上げ、笑顔で侑に返事をする。
「ええ、他にお１人でご参加の方と、抽選でペアを決めますので、大丈夫ですよー（にこーっ）」
「そう、よかった！　じゃあウチも参加するに！」
　こっちも本当によかった、どうやらバレてないみたい……侑たち３人を受付まで案内しながら、
（ううっ、でも慣れてきた自分がちょっと怖い……）
　そんなふうに戸惑う鷲羽に、この後さらなる試練が降り掛かることになるのだが……。
　ともかく、こうして全ての出場選手が、エントリーを済ませたのだった。



▼２人２脚スイカ割り大会・エントリー選手一覧
　（ペア発表のうち、前者がバッター・後者がナビ役の表記）

　立井 駒鳥 ＆ 遠矢 護

　吾妻 優 ＆ 日向 カノン

　信楽 世平 ＆ 葦原 忍穂

　荒海 藤吾 ＆ 小倉 杏子

　邪衣 士 ＆ 鬼崎 あやめ

　冴木 竜司 ＆ 碓氷 真理

　志田 朝陽 ＆ 桃原 空音

　虎沢 英子 ＆ 緑野 毬藻仔

　宇佐見 望月 ＆ 桐野 正也

　志波 拓郎 ＆ 志波 武道

　シグレ・ナイトウォーカー ＆ 緋紅朱 赫乃

　後木 真央 ＆ 猫村 翡翠

　　　 　　 ＆ 七音 侑

　（以上、計１３組・２５人）



「うにっ？　あ、あえ？　ウチ、組む人がいないよ？」
「チャーオ！　寝子島の愛され町長、中沢 リッカルドですぞ！
　おやおや、エントリーした選手が奇数になってしまいましたか」
　選手たちの前にやって来た町長が、困っている七音 侑にそこで、助け舟を出した。
「ふむ、仕方ありませんな。ここはこの町長がひと肌脱いで、
　いち選手にエントリーしましょう（ぬぎっ）」
「！！？」
　その胸毛たっぷりの裸体を見るなり、全力で飛びすさって逃げ出そうとする侑に、
「ハッハッハッ、冗談冗談。私までエントリーしたら、
　大会の進行をするスタッフがいなくなってしまいますからネッ。
　スタッフと言えば、そうだ……アシスタントの眠兎君？」
　突然、名を呼ばれてビクッとする、眠兎こと風鳥院 鷲羽だ。
「こういう事情です、私の代わりに選手として出てみませんか？」
「みっ！？　眠兎がですか？」
「そうです、アシスタントに志願頂きましたが、正直そんなにやることありませんし。
　ああモチロン、ミニライブの件は最初の約束通り、開催してもらって結構ですぞ？」
（どどど、どうしましょう……！）
　えらいことになった。知らない人ならまだしも、相手は同じ１年１０組の七音侑である。クラスメイトに自分の正体がバレるわけには、絶対にいかない。
「あの、すみませんが私は出来ませ……」
「そうですかでは仕方ありませんなァ、やはりここはこのリッカルドが（ぬぎっ）」
「ハイハイハイハイ！　ウチ、この子がいいです、この子と出るに！」
　全力でそう主張する侑の希望により、結局鷲羽も出場することになってしまった！


　因幡 眠兎 ＆ 七音 侑


　こうして最後のペアも全く何の問題もなく決定し、２人２脚スイカ割り大会は、１３組・２６名の選手たちによって、行われることになったのである。
「あーよかった、眠兎ちゃん、選手になってくれてありがとう！
　アイドルの子とペアが組めるなんて、ウチとってもうれしいに！」
　感激して自分の手をにぎり、心からの笑顔を見せるクラスメイトに、鷲羽は、
「う……あ……」
「それにね！　（こそっ）実はウチ、男の子とペアになっちゃったら困るなって、
　ちょっと思ってたんだー。男の子と水着で密着なんて、やっぱり恥ずかしいもんに……。
　ペアになったのが女の子で、ウチ本当によかったに！　しかもこんなに可愛い女の子で！
　眠兎ちゃん、ウチがナビやるから、一緒にがんばろうね！　よろしく！」
（ひぃっ、すみませんすみませんっ！　僕がその、男の子なんです……！）
　とは勿論言い出せない鷲羽、無邪気な侑の笑顔に、ズキズキはわわ……と心を痛めながら、このまま大会のスタートを迎えるのである。