Riches have wings｜リアクション

Riches have wings

　子犬のような、と言ったら失礼かもしれないけれど、そのきれいな瞳でまっすぐ見つめられると、どうにも落ち着かない気分になった。
「瓢君……」
　純粋なのだろう。
　花風ももはその真っ直ぐな眼差しを瓢に向けた。
「そんな目で見ないで欲しいんだけどねぇ」
　あんな、悪戯をやらかす彼でさえ、あの視線は耐えられないらしい。いや、だからこそかもしれないのだが。
「もも嬢にお守りをしてもらうほどのことはしてないよぃ」
　と思いきや変わらず容赦のない物言いをする。
「えと……その……」
　ももはシュンと肩を落とした。
　直行はなんだか、いたたまれなような気持ちになってくる。
「……あー、もう、今日はツイてないねぇ。
　遊びは失敗するし、金魚のフンはあれこれ邪魔するし。
　せっかくの面白そうなことも、もう終わったようだしねぇ……」
　ひねた物言いだが、要するに、燃やしてない、ということなのだろうか？
　直行はふーんと思い、耳を傾けていた。
「あっしは帰って、寝るよぃ」
　と、それ以上なにをするでもなく、瓢はふてくされて、くるんと背を向けたではないか。
「あー……俺もそろそろ帰るわ」
　堀和哉もそのタイミングで帰宅を宣言する。
「もも、あんまり遅くまで出歩くなよ？」
「ありがと……和哉さん」
　結局、直行からしてみればなにがなにやら。というような出来事だったが、終わりよければすべてよし。
　自分の手の中には、バイト代が一円も欠けずにある。
　そのことを良しとしよう。したい。するつもり。
　自身の中のなけなしのポジティブな精神で、直行はそう思い込むことにした。
　そうしないと、この子犬みたいな彼女にもっと悲しい顔をさせることになりそうだから。