Riches have wings｜リアクション

Riches have wings

　目の前で飛んでいるお札は三枚。
　確認したところ一万円札が一枚と五千円札が二枚、というところだった。
　こちらは五人組。
「やっぱり、路地に追い込んで捕獲するしかないと思うんです。袋やネットがあれば上から、ということもできるかもしれません」
　北原みゆきは篠崎響也の案に上乗せする形で提案した。
「そうだな……だが、そんなもの都合よく、」
「あ、これで良ければ使います？」
　都合よく、そんなものはあった。
　芽守健作が差し出したのはおあつらえ向きな布袋。
　その上生成り生地は随分丈夫な作りで、紙ペラ如きには破れそうもなかった。
「これもめもめもさんの仕事道具、なんですよね」
　口元を抑えながら宮島メグが言う。
「……猫捕獲用ですけどね」
　苦笑交じりの健作。
　彼が言うには猫が不安がって暴れるときに籠の上から被せるものらしい。
　ありがたくそれを借りて、作戦は決行された。
「ありがとう、ございます」
　事件のときよりも、喜好はずっと丁寧に頭を下げる。
　みゆきはそんな彼を頼もしく思いながら、
（私も、頑張るから……）
　彼女自身も頼もしく思ってもらえるように、にこりと笑顔を作った。

「お金さん、待ってください～！」
　鹿嶋洋美があからさまにお金たちを追いかける……だけでは彼らは降りてこない。
「降りてこないとこうですよー」
　洋美は石を投げてみた。相手はそれなりに驚いてはいるが、それでも降りてくる気配はなかった。
「ど、どうしよう……」
　早くも作戦失敗の気配。洋美が八方塞がりの現状に焦る。
「なら、これでどうだ！」
　芽守に肩車された喜好がぶんぶんと虫取り網を振り回す。
　さすがにこれはお金たちも驚いて、高度を下げてきた。
　これによって、風にあおられるのか、なんなのか、あまり高いところまでは飛べないらしいことが判明。
　そうしてどうにか手を伸ばせば届く範囲にまで降りてきたお金を今度こそ洋美が追いかける。
「待ってください～」
　洋美が懸命に追いかける。と三枚は方々に散ろうしてきた。
　となれば次はみゆきとメグが逃げられないように立ちふさがる。
　ひょいとすり抜けることも不可能ではないだろう。
　けれど一万円がなにやら体をひねって合図を送ると、奴らは固まって同方向に逃げていった。
　三人が追い立てる。
　三枚が逃げる。不規則な動きをしようとする。
　三人はどうにか協力して相手の動きを封じる。
　すると予定していた地点――行き止まりの路地に、三枚のお金たちが追い込まれるのだった。
「もう逃げ場はないよ」
　みゆきがじりじりとお金たちに迫る。
　お金たちは隙を見計らって上に逃げようとしているのがわかった。
　追いついた喜好が「今度こそ！」と虫取り網を構えた。
　一万円札の動向を見守る。
　あれが合図をした瞬間が、勝負のときだった。
　ジリジリと足を滑らせる。
　ザラザラとした感触が靴越しに伝わってくる。
　腕を伸ばせば届く。その距離まであと一秒。
　そのとき、一万円札が大きく加速した。
「いまだよ！」
　その瞬間、響也と健作が空から降ってきた。
　先回りして壁に登っていたのだ。
　瞬間加速と猫捕獲によって磨かれた熟練の技がお金に襲いかかる。
　そして、一万円札を除いた二枚を見事捕獲した。