寝子島★トマト祭り｜リアクション

寝子島★トマト祭り

「やあ、いらっしゃい」
　剛にずるずる引き摺られて、冬馬がまず来たのは小さな放浪画家・旅鴉月詠のリゾットとトマト鍋を販売する出店だった。
　賑やかな客達に、涼しげな視線を向ける月詠の今日の衣装は、トップスはタンキニ（タンクトップのような外見の水着）、ボトムはホットパンツ。頭にはバンダナを巻き、その上からはゴーグルをしていた。
「暑いし、暑いところにいるからね」
　そう言う彼女は、タンキニだから普通の服にしか見えないと考えているようだが、小柄ながら豊満な月詠が体にフィットする服を着て肌を晒しているものだから、その健康的な美は人目を惹きつけていた。
「ええニオイや、うまそやな～！」
　満面の笑顔を見せる剛とは対照的に、冬馬はまだ狼狽している。

「ほお、旅鴉は鍋料理がメインか。取材してもいいかな？」
「八神か、どうぞ？」
　月詠に小型カメラを向けるのは、新聞部部長の八神修である。
「まあ、とても美味しそうですね……私にも、リゾットを頂けますか……？」
　修の後ろから覗き込んで、御巫時子も料理を注文した。
　時子はこのために、朝食を軽くしてきていたので、もうお腹ペコペコなのだ。
「俺も頼むよ、実食して味についても書きたいからな」
「毎度あり。恵御納が、座って食べれるように椅子を用意してくれているから、そこに座って食べるといいよ」
　せっせと会場にゴミ入れを設置してまわる、ふわふわ髪を猫のピンで留めた少女・恵御納夏朝に目を向けて、月詠は微笑んだ。
　夏朝は落ちているゴミも、積極的にゴミばさみで摘んでクリンネスに勤しんでいる。
「夏朝さん、働き者ですものね……」
「ああ、実際よく気が回るから、助かっているよ」

「俺達は、鍋もらおか」
「ありがとう、今お出しするよ」
　底の深い鍋を軽くかき混ぜて皿に盛り付け、月詠は流れるような動作で、トマト鍋を剛に手渡した。
　先に座っていた時子や修に並んで、剛は冬馬を座らせた。
「ホレ、あーんしてみ？」
「むぐぐ、剛にぃやめ……あれ？　うまい……？」
　無理やり口の中に流し込まれたトマト料理の意外な美味しさに、冬馬は目を瞬かせた。
「どや？」
「うまいよ、コレ！　なんで？」
　美味いと分かれば、スプーンの勢いは止まらない。冬馬の反応に、月詠は満足気に頷いた。
「熱々もいいが、少し冷ましてあるから、食べやすいはずだよ」
　この暑さゆえの、配慮だ。
「やばい！　景品でもトマトもらえるみたいだし、ますますやる気出たぜ！！」
「はは、その意気やで！」

「バジルのいい香りで、美味しいですね……」
「そうかい？　ありがとう」
「レシピはどうなっているんだ？」
　修の問いに、月詠は作業工程を説明した。

「まず肉類を先に煮て、アクを取るんだ。それからトマト、トマトソースとコンソメを入れて、再沸騰させたら調味料で味付け。野菜やキノコ、肉団子等を一緒に煮る。煮えたらチーズをかけて溶かす……こちらはトマト鍋の作り方だな」
　口では、ざっと説明しているが、月詠の事。丁寧な仕事をしたのは、味から容易に理解出来た。
「なるほど、リゾットは？」
「リゾットはトマト鍋をベースに、ライスを入れて、チーズをかけたら溶き卵を投入。そしてバジルとブラックペッパーで風味をつけてあるよ」
「そうか、協力ありがとう。いや美味すぎて、つい食べ過ぎてしまいそうだ」
「本当に、美味しいです……」
「そう思って貰えるなら、光栄だよ」