ある雨上がりの戯れ｜リアクション

ある雨上がりの戯れ

　買い物が終わってちょうど雨が上がる。

（僥倖だな。帰って晩飯作らないとアパートの奴らにドヤされる）

　高城律はそんなことを思いながら、地面にいくつかできた水溜まりの１つに足を踏み入れた。

「……はっ！？　何処だ、ここ！？」
　
　思わず叫んだ。どこかの岬だろうか。しかも端の方だ。
　疲れているのか、ここまでどうやって来たのか記憶が無い。記憶が無いというか一瞬だったような気もする。
　しかし一体どうやって……。
　慌てて辺りを見回すと、見知らぬ少年の姿が目に映った。

「おにーさん、ひとり？　一緒にメロンパン食べない？」

　急に声をかけられてビビったものの、悪い奴ではなさそうだ。
　とりあえず誘われるまま座り、渡されたメロンパンを口に運ぶ。
　何故だか少年の手にあるメロンパンは一部赤い。苺ソースでもかけてあるのか。それにしては色がとても赤々しくまるでタバスコのようだったが、そんなはずはないと心の中で呟く。
　少年はメロンパンを食べながら、空を見上げていた。

「何見てるんだ？」
「虹だよ」

　少年に言われて、律は漸く虹が出ていることに気が付いた。色がはっきり見えない律自身には見辛いが、虹である。

『虹の根元には、』
「宝物が埋まってるんだよ」

　脳内で反復した声と、思わず呟いた声が重なる。親友から聞いた話だ。

「虹の根元かあ」

　少年が言う。

「メロンパンだといいなあ」

（メロンパン？　能天気な奴だな、少年は）

　けれど、それがいいのかもしれない。

（俺なんか、今の今まで虹に気が付くことすらなかった）

「俺の宝物は何なんだろうな」

　律自身に問いかけるように呟いてみる。何も浮かばない。少なくとも、虹を自分１人で見つけられもしない奴が宝物だなんて、図々しいだろう。
　少年が立ち上がる。

「帰るのか」
「うん。あ、おにーさん。素敵なお話を聞かせて貰ったお礼に最後に１つ」

　少年は流暢な発音で律に言った。

「You’ll never find a rainbow if you’re looking down.」