ある雨上がりの戯れ｜リアクション

ある雨上がりの戯れ

　放課後。下校中に寝子高前の水溜まりを踏んだ御巫時子の視界に、突然猫鳴館が映り込んできた。
　不思議なこともあるものだと振り返ると、案の定そこに寝子高の建物は無い。
　突然猫鳴館に来たのはいいものの、今日は誰かと会う約束は無い。急に押しかけては相手の都合もあり、迷惑になる。
　ならばどうするか……と思案する時子の目に、１羽の小さな鳥が見えた。
　時子のろっこんは、鳥と会話ができる。迷いなくろっこんを発動させて、その鳥に挨拶をする。
　そうして、移動した原因であろう水溜まりに、今度は意図的に足を踏み入れた。
　景色が変わる。寝子島神社のようだ。折角だからとお参りをしてから、先程と同様、近くにいる鳥に声を掛ける。
　もしかしたら時子と同じように水溜まりを踏んで急に現れた人がいたかもしれない。

「急に現れる人を、他に見かけなかったでしょうか？」
『急に消えちゃった人ならいたよ』
「ありがとうございます。きっと、私と同じように水溜まりを踏んだ人みたいですね」

　時子は納得したように頷くと、寝子島神社の水溜まりに近付く。
　次の場所は寝子島シーサイドタウン駅。近くの花屋の、鮮やかな花が目に留まる。
　小さな花束を作ってもらうと、時子はその花束から花を１輪、傍にいた鳥にプレゼントした。

　それからまた水溜まりを踏んできた場所は……何処なのか分からない場所だった。
　山奥だということは分かる。しかしそれ以外の情報が無い。
　目の前にはひっそりポツンとあるお墓。

「どなたのお墓でしょうか？」

　お墓は最近誰かが来たのか、綺麗に掃除されて、何処かで摘まれた花が供えてある。
　もしかしたら、時子と同じように水溜まりで移動してきた人かもしれない。
　持っていた小さな花束を墓の前に置いて、時子は手を合わせる。

（この不思議な水溜まりと関係が……？）

　近くを飛んでいる鳥が何か知っているかもしれない。時子は聞いてみる。

「子ども……ですか」

　鳥の答えは、『海に沈んだ子ども』……その子がこのお墓の主なのだろう。
　もう一度お墓に手を合わせてから、時子はまた水溜まりを踏んで移動する。
　次は……最初にいた寝子高の前の水溜まりだった。他の場所に移動しようと水溜まりを踏んでみるが、景色は変わらない。
　不思議な時間は終わってしまったようだ。
　少し残念な気持ちもあったが、今日は色々な鳥とお話しできて良い時間を過ごせた。そう、時子は思った。