ある雨上がりの戯れ｜リアクション

ある雨上がりの戯れ

（花風さんは綺麗やね）

　空にかかる虹は綺麗だけれど、ももの方が比べられない程にずっと綺麗だと思う。
　手を繋いで水溜まり旅行をした終着点。
　最後に立ち寄った星ヶ丘教会で、雨は思う。
　共有する時間と、場所と。
　一緒にいることができる一瞬一瞬が、雨の大事な宝物。
　ももといると、不思議と心がぽかぽか温かくなる。
　ずうっと一緒に居りたいなぁ……なんて、気持ちになるのだ。
　今日は彼女の色々な表情を見た。
　普段学校で一緒にいられる時間は多くはない。
　その限られた時間の中で見るももの表情は、不思議な水溜まりでの移動を通して見てきた表情のほんの一部だったのだと気付かされる。
　ももが好きだという教会。それだけのことで、雨も好きになれそうだと思った。
　不意に青い小鳥が雨ともも、２人の頭上をくるくると回り始めた。嬉しそうな表情になるももを見て、ももの友だちの小鳥なのだと分かる。
　綺麗なももと、可愛らしい小鳥。
　嬉しそうなももの表情を見て、雨も嬉しく思う……はずだったが、去来したのは違うもの。

（うー……鳥やのうてボクの方見て欲しいのに……）

　嫉妬、だ。嫉妬に駆られて、繋いだ手を優しくきゅっと握る。

（こっち向いてくれたらええな）

　想いが通じたのか、ももが雨の方を向く。青い小鳥には悪いけれど、今は、雨だけを見ていて欲しかった。

（花風さんの全部を、独り占めしたいって思うんは我儘かな……）

　ぱしゃり。
　水溜まりを踏んだが、もう移動する様子はない。魔法は解けてしまったようだ。

「もう暗なるし、お家まで送るよ」
「雨君、お家まで送ってくれるの？」
　
　雨はももの言葉に笑顔で頷く。
　２人水溜まり移動していたときのまま、手を繋いで、ゆっくりと歩く。
　ももに歩調を合わせて、雨より歩幅が小さいことに気付く。
　当たり前のことだが、この不思議な体験が無ければ、こんなことにも気付けなかった。
　だから気付けた今日はとても幸せだ。だからこそ、帰り道が終わってしまうのがこんなに残念なのだろう。
　帰り道が終わることが残念だなんて、ももと会うまで知らなかった。もうお別れしなくてはならないのは寂しい。

（花風さんもそう思てくれてるとええな……）

　なんて思っていたことがうっかり口から出てしまっていたのだろうか。

「少しだけ遠回りしてもいい……？」
「え、ホンマに！？」

　ももの言葉は、求めていたもので。
　驚きと嬉しさで思わず雨は声を上げた。

「えへへ、ボクでええなら何処までも一緒に行くよ」