【期末テスト】赤点？満点？？夏目前、四日間の死線｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？夏目前、四日間の死線

●４日目：それぞれの打ち上げ：命信堂

　命信堂。
　旧市街の参道商店街の辺りにあるこの和風の古屋敷は、晴海飛鳥の亡き祖母の家だった。現在、飛鳥はこの家を借りてひとりで暮らしている。

　久々に命信堂を訪れた神無月ひふみは、古く傷ついた柱を撫でながらいった。
「あー、懐かしい！　おばけが出そうでボロいけど落ち着くのよね、ここ」
　それを聞き、飛鳥も思わず目を細める。
「ひーちゃん昔はよく来てたよね」
　今日は試験終了を祝して、幼馴染み水入らずで打ち上げ……のハズだったのだけれど。
　命信堂は蔵もあるような広くて古い屋敷だから、ふだん飛鳥ひとりでは行き届かないところも多い。ひと目でそれを見てとったひふみが、「まずは掃除！」と言い出したのだ。
「ねー、この家広いからいつもご飯食べてる６畳間だけにしようよ。ふたりだもん、それで充分じゃない？」
「だーめ。折角天気がいいんだもの、本や掛け軸も虫干しにしましょ。それから夏休みに入る前におばあちゃんの仏壇も綺麗にしなきゃ。お庭のお花、摘んでもいい？」
「そりゃかまわないけど」
　家の中ですら行き届かないのだから、庭だって行き届いているわけがない。自然のまま伸び放題の庭には淡い色をした名も知らぬ花々が咲いていた。ひふみはそれを何本か戴くと、縁側から家の中に身を乗り出すようにして、お仏壇の埃を払っている飛鳥に呼びかけた。
「あーちゃん、花瓶ある？　……あーちゃん？」
「え？　あ、ごめん。いま、これ見つけちゃってさ」
「あ、おばあちゃんの写真。……いいお顔ね。おばあちゃんは私の恩人だったなあ」
「そうなの？」
「ホラ、うちってあんなじゃない？　だから実家のことで近所の悪ガキにいじめられることがあって。そしたらおばあちゃんがコラー！　って箒もって来てくれてね、追っ払ってくれたんだ」
「そうだったんだ。お互い家のことでは苦労したよね。うちも拝み屋なんかやってたもんだから、不気味がられてさ……でもひーちゃんはいつも仲良くしてくれたね。一人で夜遅くまで遊んでると、一番に心配して探しに来てくれたっけ」
「あはは、そうそう。それでふたりで、おばあちゃんに叱られたのよね。コラー！　って」
　あのときは涙目になったけれど、いまとなっては笑い話。
「あのときからひーちゃんは僕の大事な友達だよ」
「あーちゃんはおばあちゃんそっくり。私のヒーロー」
　いつまでもこのままではいられないかもしれないけれど。願わくばこの関係が長く続きますように。
　庭で摘んだ花を供えて、ふたりはお仏壇に手を合わせる。見守っていてね、と。

　掃除を終えてさっぱりすると、ふたりは浴衣に着替えて縁側に腰掛け、あれこれ話をした。
　これまでのこと、そして、これからのこと……。
「ねえあーちゃん、将来の進路は決まってる？　おばあちゃんに憧れて拝み屋になるって本気？」
「将来かあ。今は自分の周りで起きてる色んなことをさ、心のそこから楽しみたいんだ。だから先のことを考える余裕がないってのが正直なとこ」
「そうなのね。私は……幼稚園の先生をめざしてたんだけど最近わからなくなっちゃって。極道の娘が幼稚園の先生なんておかしい？　親父も実家も嫌いじゃないけど、自分にはそれしかないなんて思いたくない。でもどうしても迷っちゃうの。ねえ、……おばあちゃんが生きてたらなんて言うかな？」
「うーん、ばあばって何考えてるかわかんない人だったからねぇ……。でも個人的にひーちゃんはいい先生になれると思うよ。僕みたいなはみ出しものとずーっと付き合ってくれるんだもん、きっとどんな子供とも分け隔てなく付き合える素敵な先生になれると思うよ！」
　自信たっぷりにそういうと飛鳥はニカッと笑った。
「ばあばも応援してくれるよ、きっと」