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[TOS]レメディ
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泣き終えたサツキは、リオの胸に頬を当てたままゆっくりと息を整えた。
リオの心臓の音が、耳のそばで規則正しく鳴っていた。
生きている音だとサツキは思った。本物の肉体が立てる音。
私の、偽物とはちがう。
「私の亡父……父の名は、サワザキ」
意を決してサツキは口を開いた。
「父は教授職で、シザクラの同志だった。人道を踏み外した、ある工学技術のね」
「人道……?」
「有機体機械化統合設計」
その文字列が、リオのなかでひとつの単語を浮かび上がらせた。
Organic Robotic Cybernetic Hybridization Integration Designの頭文字を取れば“O.R.C.H.I.D."になる。
「……『蘭(orchid)』、ということ?」
「そう。〈蘭紋〉〈蘭付き〉、あの子たちの起源にあたる技術。そして私の、起源でもある。元は昆虫に電子回路を移植するような、ありふれたロボット工学だった。でも……あまりに有用な素材を対象に選んで、禁忌の領域に踏み込んでしまった」
リオはすでに理解していた。
それは当時すでに何十億とあって、つねに生産されていて、みずから動き、みずから考える。加えて、この素材に関する研究の蓄積は、それこそ千年単位で存在した。
──人間のことだ。
「父は“O.R.C.H.I.D."の研究で、よりよい世界を実現しようとしていた。病気や障害に苦しむ人を救うために。だから、シザクラと袂をわかつ結果になった」
「シザクラが、その考えに同調しなかったから?」
「彼も『よりよい世界の実現』には賛成していた。でもシザクラは、病や障害をもつ人を弱者とみなし、これを排除する目的に技術を使おうとした」
サツキは淡々とつづけた。
「最初は、ただの選別だった。でも、シザクラのみなす『弱者』の定義は、彼の肥大化する野心とともに際限なく拡大していった」
サツキはそこで一瞬、言葉を止めた。
「……重い病や障害を持つ者から、経済的に劣った者へ、さらには特定の人種へ。そして最後には──自分たちの思想に同調しない、従順ではない人間すべてへ」
「そんなこと許されるはずない!」
リオは思わずサツキの肩を強く抱きしめていた。自分の胸の鼓動が、怒りで速くなるのを感じる。
「そんな狂った考えが、世界に受け入れられるわけない! 誰かが止めるはず!」
「いいえ」
サツキはリオの胸に顔を埋めたまま、小さく首を振った。その髪が、リオの肌を摩擦する。
「世界は喜んでそれを受け入れたの。国家のエリートや、世界を牛耳る巨大テック企業のオリガルヒたちは、こぞってシザクラの思想を支持した。彼らにとって、社会保障費を食いつぶす弱者は『コスト』でしかなかったから」
「でも世論が」
「世論の誘導など、彼らにとっては造作もないことだった」
サツキの声に、感情の起伏はなかった。
「はじまりは『高齢者の安楽死推奨運動』だった。社会の質を上げよう、というきれいな言葉の下に毒が仕込まれていた。一度呑み込めばあとは簡単。障害者、非正規移民、少数民族へ……ターゲットが広がるたびに、世界の大半は『効率的だ』と拍手したのよ。地球が干上がり、食料が尽きかけて、誰もが正気を失っていた時期だったからかもしれないけど」
サツキの身体が、かすかに震えていた。
「その効率的な排除とリサイクルのシステムに、私たちガーナックは役立った。とてもね」
「“私たち”なんて言わないで。だってサツキは──」
「リオ、聞いて」
サツキはリオの胸から顔を上げた。目が赤い。それでも、視線はゆらいではいなかった。
「私は心臓に障害を持って生まれた。余命の短い私を、父は密かに進化型ガーナックの素材に選んだ」
短く息を吸う。
「皮肉でしょ? 平和利用のために技術を使おうとしていた父が、もっとも凶暴なガーナックを生み出してしまったのだから」
即座に否定できなかった。それがリオには悲しかった。
「Y.E.S.S.I.R.はシザクラの発明で、父には作れなかった。みんな、服従回路のないガーナックを楽観的に見ているでしょう? でもちがう。制御する回路がなければ、暴走の危険はつねにある。私のようにね。後天的にY.E.S.S.I.R.を除去したガーナックだって例外じゃない。一種の生命維持装置なのだから──あの子たちは、長くても数年で死んでしまう。だから父は私の記憶を消して、長く眠らせていた」
もう一度、サツキは深く息を吸った。
「だからまた、私は暴走するかもしれない。どうしてもというときは……リオ、私を止めて」
「止める、って」
「リオなら、できると思うから」
「……」
リオはサツキの頭を、もう一度自分の胸に引き寄せた。
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ダイアリー一覧
シナリオデータ
担当ゲームマスター
桂木京介
前回シナリオ
[TOS] 狂気日食
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
SF・ファンタジー
定員
10人
参加キャラクター数
10人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年07月08日
参加申し込みの期限
2026年07月15日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年07月15日 11時00分
参加キャラクター一覧
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