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午後の練習が終わったのは、五時を少し回ったころだった。
日はまだ高い。夏の夕方は長くて、空は青いままだ。昼間の熱気がたっぷりと残っていて、歩くだけで足の裏から暑さが伝わってくる。まめに休憩を取り、熱中症対策もあってずいぶん水を飲んだのに、もう喉が渇いていた。
部室で着替えを済ませてグランドを出る。凛々花は練習の終盤で切り上げていた。入院中のお母さんの見舞いだと、ユキが教えてくれた。ユキは保育園からの幼馴染みだから、凛々花のお母さんのことも長く知っている。そういうわけで、ユキも一緒についていったようだ。井ノ上は居残りで補強練習をすると言って、ひとりグラウンドに残っていた。あの底なしの元気はどこから来るのだろう。
帰り道を歩きはじめて、すぐに気がついた。
優眞が、校門のそばに立っている。特に誰かを待っているふうでもなく、スマホを見ているでもなく、ただそこにいたという感じで。琉歌が出てきたのに気がつくと、自然な感じで歩き出した。
「中参君、いたんだ」
「おう」
「一緒に帰る?」
「そうしよう」
「て言っても私、寮までだけど」
「……たっぷり二時間はかかる距離だな」
「カタツムリにでも乗って行く気!?」
軽く笑いあう。
今日の練習のこと、凛々花の母親のことなど、いくらか会話を交わしたものの、やがて言葉は途切れて、あとはただ、同じペースで歩いていく。
どこかの家から夕飯の匂いがする。自転車が一台、追い越していった。
しばらく無言がつづいた。
気まずいわけではなかった。優眞との沈黙は、前からこんな感じだ。埋めなくていい沈黙というものが、たしかにある。
「短冊」ふと思い出し、琉歌は言ってみる。「昨日、ゆかたまつりで買ったやつ」
「可能性七割?」
「そうそう」
互いに表情がゆるんだ。謎のキャッチコピー『ここに書き入れた願いは七十パーセントの確率でかなう!』、これを共有した者同士だけに通じる笑いだった。
「中参君も買ったよね」
「つい魔が差して」
優眞だけではない。凛々花もユキも、子犬のような井ノ上まで、迷わず購入したのである。
買っちゃうよなあ、と優眞が言った。
「……七十パーセントってとこ。逆にリアルだなと思って」
「うん。わかりみ深い、ってやつ? 古すぎ?」
「古すぎと思ってるなら言うなよ」
また小さく笑って、また少し、間があった。琉歌が言う。
「中参君は書いた? 願いごと」
「まあ、書いたけど」
「なんて書いた?」
「いきなりそこ訊くか」
「だって気になるじゃん」
「そういう中倉は?」
「書いてない」ためらうことなく琉歌は言った。「ほら、打ち明けたんだから中参君も情報開示っ。等価交換だよ」
「それ等価ってことになるか?」
優眞は苦笑いしたが、照れ笑いのようにも見えた。琉歌の脳裏を、昨夜の優眞の横顔がよぎった。
「七夕は誰かと一緒に来るもんだよな、やっぱり」
彼の言葉だ。「友達」じゃなくて、「誰か」。心のなかにいる人のことだろう。
だったらきっと、私と似た願いをもって、実際に書いたってことだと思う。
ユキも凛々花も、井ノ上だってそうだったかもね。
でも中参君は誰の名前を書いたのだろう。
私の名前じゃないのは、確かだよね。だって、私ってあんまり彼のタイプじゃない、というか……。
中参優眞はどこか古風な少年だった。頼れるリーダー気質があって、寡黙なほうで、弱音を吐いているところを見たことがない。部活でも、女子の荷物が重そうなら聞きもせず持ってくれる。礼を言われても「いや別に」のひとことで終わる。昔のドラマに出てくる無口で頼りになる男みたいだ、と琉歌は前から思っていた。
だから彼に意中の人がいるとしたら、きっと楚々として、出しゃばらないで、彼の半歩うしろをついてくるような子だろう。
つまり、自分では逆立ちしたってなれない人種だ。
「実は──」
と優眞が言いかけたところで、大型トラックが脇をごうっと通り過ぎた。風圧で髪が揺れる。排気ガスの匂いは、長く使っていなかったクーラーを動かした直後に似ていた。
優眞は口を動かしていたが、琉歌には聞き取れなかった。
エンジン音が遠ざかって、静かになった。
「ごめん中参君、もう一回言って? 聞こえなかった」
優眞は泣きそうな顔をしていた。なんで? と琉歌は思ったがそれは一瞬のことだった。優眞は深く息を吸う。
「……もう一回って、ちょっときついな」
力なく笑ってみせて、両手で自分の頬をもんだ。よし、と小さくつぶやく。
「中倉、俺な」
「うん」
優眞は足を止めていた。固い表情だったが、やっぱり綺麗な目をしていた。大海原に漕ぎ出したばかりというような、晴れやかな目だった。そのまなざしをそらすことなく、まっすぐにこちらを見ている。
「『中倉琉歌と付き合えますように』って書いた」
言ってしまってから、優眞は小さく息を吐いた。耳が赤くなっているのが、夕方の光の中でもわかる。
「俺、中倉のことが好きだから」
琉歌はまばたきをする。
頭の中が、真っ白になった。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
桂木京介
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
オールジャンル
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年06月01日
参加申し込みの期限
2026年06月08日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年06月08日 11時00分
参加キャラクター一覧
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