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あの夜──。
稲積 柚春
は思い出す。
おやすみを言うまで、僕とワットは完璧なカップルだった。
少なくとも、僕はそう信じてた。
七夕の日の記憶だ。
ウォルター・B
、柚春にとってはワット。ルックスも家柄も頭脳も、何もかもが規格外の王子様。雲の上の存在のような彼なのに、自分だけには甘えてくれる。自分だけを、愛してくれる。それは柚春における厳然たる事実だ。証拠ならいくらだって挙げられた。ペアリングを贈ってくれた。想いを打ち明け合った。それに、彼は柚春の願いをいつも聞いてくれるのだ。断られたことなんてない。近い将来、ウォルターと結婚することを、柚春は信じて疑っていなかった。
その日も柚春は、ウォルターと一日をすごした。彼の邸宅で。せっかくの七夕ゆかたまつりの日だったが外は土砂降り、そもそも生徒と教師という関係があるから、人目があるところは避けたかった。
夜も遅くなって雨が上がり、手をつないで坂道をくだって、ウォルターは柚春を家に送ってくれた。
でも、
「部屋に上がっていかない? お茶でも淹れるよ」
彼女の誘いに、彼が返したのは、
「これはご親切に。しかし、淑女の私室に夜分お邪魔するのは、紳士の作法に反するものでねぇ」
という、妙に芝居がかった言葉だった。
「柚春のお茶は魅力的だけど、それに甘えてしまうのはよくない気がするなぁ」
軽やかに笑う。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
じゃ、と言ってウォルターは背を向けた。
変だな。
柚春は思った。
この日ずっと感じていた小さな違和感が、ようやく形を持ったというべきだろうか。
本当は僕たち、そんなに完璧じゃなかったかもしれないね。少なくとも今日は。
だって今日のワット、そんなに楽しそうに見えなかったから……。
僕が話しかけても、
「そうだねぇ」
とか、
「かもしれないなぁ」
とか、
ぬるくなった炭酸水みたいな生返事ばっかりで、どこか遠いところに意識を置いたままみたいに見えた。
優しいところはいつものワットだった。僕の料理を「きれいだねぇ」と褒めてくれた。帰り道だって手をつないでくれた。でも「きれいだねぇ」の視線がどこを向いていたのか、思い返すとよくわからなくなってくる。手をつないでくれたのに、それすらただの条件反射だったんじゃないかって、思えてしまう。
ワットが僕に、何か隠しているとしたら──。
やめよう。
柚春は奥歯を噛む。疑いはじめたらきりがない。あの坂道で彼と手をつないでいたのは確かだ。
──確かなのに。
やめようと決めたそばから、もう揺らいでいる。
なぜワットは、あんなに急いで帰ってしまうんだろう。
ウォルターは駆け出したりはしなかった。けれど、急いでいる様子なのはまるわかりだった。
それにね、ワット。その方向は星ヶ丘方面じゃないよ。街につづく道だよ……!
柚春はしばらく、道の先を見つめていた。雨に濡れた石畳が街灯を反射している。
ウォルターの背中は、もうとっくに見えなくなっていた。なぜあんなに早く帰りたかったのか。
どこかへ行きたかったから?
それとも、誰かに会いたかったから?
考えたくない。
追いすがりたかった。でも足が動かなかった。彼の背をつかまえたら、この疑念が本物になってしまうような気がして。
「どうしても、七夕に会いたい人がいるのかな……」
口に出したとたん、単なる疑念が、まるで真実であるかのように胸を突き刺した。
気のせい、だよね。
でもワットにとって、いままでのほうが気のせいだったら?
右薬指のペアリングを撫で、彼との約束を振り返る。
卒業を待っててくれる、ワットはそう言ったよね。
その言葉を疑ってなんかないのに、彼から贈られたピアスもネックレスも彼の瞳色なのに……ワットにとっては、全部が気まぐれだったら?
気まぐれさはある意味、残酷さの裏返しかもしれない。
気まぐれな人は、与えるにも奪うにも躊躇なんてしないだろう。
考えるのが怖い。
いつの間にか柚春は、親指の爪でリングの縁をひっかいていた。
けど僕は……ワットがだいすき。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
桂木京介
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
オールジャンル
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年06月01日
参加申し込みの期限
2026年06月08日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年06月08日 11時00分
参加キャラクター一覧
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